恋を忘れたバレンタイン
ホワイトデーの奇跡
俺は、彼女への想いを残したまま、出張先であるニューヨークに辿り着いた。

スーツケースから、一粒の丸いチョコレートを取り出した。

何で持って来てしまったのか? 
こんな物しか彼女と俺を繋ぐものが無い事に、ふっと笑ってしまう。


 しばらく会わなくなってしまい、彼女にとっては、都合のいい距離になってしまったのではないだろうか? 

 なんだか切なくなり、チョコをくるくると転がす。
 一層、食べてしまった方が楽なんじゃないかと思い持ち上げてみるが、結局スーツケースの中に戻した。

 今の俺に出来る事は何だろうか?

 会いたいと思う気持ちは募るが、どうにもならない距離まで離れた事に、自分自身を客観的に見れる気がした。
 ずっと彼女を思い続け、手の届かない人だと思っていた。それが、急に自分の手に触れる事に、俺は焦っていたのかもしれない。だけど、決して誰にも心を許さない彼女を手に入れるには、俺にとっても二度とないチャンスだった。

 狭いシングルルームのベッドに横たわる。
 彼女が言ったひと言が、胸の奥に刺さったまま、チクチクと痛む。
 『重くなる……』彼女にとって、深い傷であるように思える。

 気高くプライドの高い、完璧に思わせる彼女の姿が、俺にとってもいつか重く感じる時が来るのだろうか?

 もしかしたら、もうすでに心のどこかで彼女の事を重いと思っているかもしれない……

 だとしたら、どうすればいい?
 俺は、机の上に積み重なった研修資料に目を向けた。
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