恋を忘れたバレンタイン
まずいと思うのに、一度横になった体は起こす事が出来ない。

 彼が、私のコートに手をかけたのが分かった。コートを脱がされ、楽にはなったが寒気が増す。

 彼は、私の体を一度起すと、器用に私のスーツのジャケットを脱がせた。そして、そのまま私の体を寝かし布団を掛けてくれた。

 布団の匂いに何故か安心出来る自分がいた。
 彼の匂なのに……


「寒くないですか……」


「ええ…… ごめんなさい……」

 布団から顔だけ出した私は、今にも消えそうな意識の中で謝った。

 すると、そっと彼の手が私の額に触れた。


「こんな時ぐらい甘えて下さい。コンビニまで行ってきますから……」

 彼の、言葉が遠くで聞こえる。


 甘えられるわけなんてないじゃない…… 


 そんな事を思いながらも私は眠りに落ちた。

 彼の匂のするベッドの中で……
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