恋を忘れたバレンタイン
どのくらい眠っていたのだろうか?

 頭に冷やりと気持ちのいい感覚がし、うっすらと目を開けると、私を見下ろす彼の目と重なった。
 氷枕を用意してくれたのだ……


「起きられますか? 水分とって下さい」

 彼は、私の肩を抱くように体を起してくれた。

 そして、ペットボトルのスポーツ飲料の蓋を開けて差し出した。私は、ペットボトルを受け取ると、一気に喉へと流し込んだ。こんなに、喉が渇いていたなんて自分でも気づかなかった。


「ありがとう…… そろそろ帰るわね……」

 そう言ったのだが、彼は黙って私の体をベッドの上にそっといたわるように寝かせた。
 黙ったままの表情とは反対に、彼の仕草には優しいものがあった。


 布団を掛けられると、起き上がろうと思うのに、今度は深い眠りへと落ちていってしまった。
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