恋を忘れたバレンタイン
 しばらくすると、ノックの音がして彼が入ってきた。


 ベッドに近づき、私の顔を覗くと額に触れた。


「まだ、熱が高いみたいですね」

 彼は、手にしていた氷枕を私の頭の下に置いた。
 氷を入れ替えてくれたようだ。
 頭が冷たくて気持ちがいい……


 そして彼は、私を見下ろしたままふっと動きを止めた。


「どうしたんですか? 寒いんですか?」


 私を見ている彼の眉が動き、綺麗な目が困っているように思えた。


 私は、首を横に振るが、体がぞくぞくして震えが止まらない。
 熱が上がっているのだろう。


 彼は、そっと私の頬に触れると、そのまま目を閉じた。
 しばらくして、きりっと目を開けると小さく息をついた。

 そして、布団を捲るとベッドの中に入ってきた。
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