恋を忘れたバレンタイン
 えっ? 

 なんで?

 朦朧とする思考の中で、さすがに同じベットで男性と寝るのはいかがなものかと思うのだが……

 でも、ここは彼のベッドで、出て行かなければならないのは私のほうで…… 

 
 そんな言葉が頭の中でグルグルまわりはじめ、私は寝返りを打ち彼に背を向けた。

 すると彼の手が後ろからまわり、私の体を抱きしめた。


 お風呂に入ってきたのだろう。シャンプーの香りがする。
 そんな事は、どうでもいいと思いながらも彼に抱きしめられいる事を実感してしまう。


「ちょ、ちょっと……」

 彼の腕から逃れようとしたが、私の力では抜け出す事が出来ない。


 でも、正直、彼の胸は大きくて、力強くて、暖かかった……

 震えていた体が、暖かくなっていくのが分かる……

 気持ちがいい…… 


 彼は、私の体を暖めるように、やさしく抱いていた。
 ただ、それだけだった。


「明日の朝も、熱が下がらなければ病院に行きましょう」

 彼は、私の頭の上で言った。


「大丈夫よ……」

 私は、小さな声で言った。それが精一杯だった。


 今日、初めてまともに会話をしたような人なのに……

 その人の腕の中にいるなんて信じられない……


 だけど、その腕の中は心地よくて……


 私は、安心して、眠りに落ちてしまった。

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