恋を忘れたバレンタイン
 脱衣所を出て、寝室でスーツに着替えようと思ったのだが……


「主任、こっちにどうぞ」

 彼の声に足が止まる。
 リビングの方へ手招きされた。


 リビングに足を踏み入れると、余計な物がなくすっきりと片付いており、ソファーとテーブルが置かれている。


「うどん作ったので、食べれますよね?」


「え、ええ……」

 せっかく作ってくれたと思うと、断るのは気が引ける。


「どうぞ……」

 煮込みうどんに卵の乗ったどんぶりを、テーブルの上に置いた。

 いい匂いがする。


「ありがとう…… お料理よくするの?」


「いいえ。初めて作りました。ネットで調べて作ってみました」


「えっ」

 一瞬にして、さーっと血の気が引いた。
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