恋を忘れたバレンタイン
 寝室を出ると同時に、お風呂から出て来た彼とばったり出くわした。グレーのパジャマ姿に、まだ濡れた髪をバスタオルで拭きながら、私の顔を見た。

 胸の奥が、ドキッと音を立てた。

 私は、何に動揺しているのだろう?


「どうしましたか? 何か欲しい物でもありますか?」

 彼は、さらっと言いながらリビングに入ろうとした。



「いいえ…… そうじゃなくて……」


「何ですか?」

 彼は、私の方へ振り向いた。


「今夜は…… 私はソファーで寝ようかと……」


 少し遠慮がちに言葉を出した。


 彼は、ジロっと私を睨んだ。
 何か、悪い事でも言ったのだろうか? 
 謙虚な申し出のはずだ。


「それなら、僕がソファーで寝ますよ」


「そ、それは申し訳ないわ……」

 私が、慌てて両手を横に振ると……


「なんて、俺が言うと思いますか? 俺のベッドですから、俺に主導権はあります。今夜も主任と寝る事にしてますから……」


「だ、だから、私の言っている意味が通じないの?」


「全然……」


「あ、あのね…… これでも、一応女なんです。あなたから、見たらおばさんかもしれないけど…… 男の人と同じベッドで簡単には寝れないのよ」

 私は、赤くなった顔を慌てて背けた。
< 37 / 114 >

この作品をシェア

pagetop