恋を忘れたバレンタイン
 そして、もぞもぞとベッドに入る。

 さすがに、もう眠れない……


 鞄からスマホを出すと、加奈ちゃんや、渡辺君からメールが入っていた。体を心配してくれるものと、仕事の報告だ。
 メールにさえ気づかず眠っていた事に驚く。私は、一件づつ返信し始めた。


 ベッド上に横になったまま、天井を見上げる。
 私は、一体何をしているのだろう?

 完全に彼のペースに流されている。こんな事は始めてだ。いつだって自分の意志をしっかり持って、誰かに流されることなんて無かった。
 しかも三つも年下の部下にこんな姿を見られるなんて、この上ない落ち度だ……


 どう冷静に考えても帰るのが常識的な判断だと思う。

 帰らなければと体を起そうと思うが、やはりまだ気だるさが残っている。

 帰らなければ…… 

 でも、本当に私は帰りたいのだろうか? 

 そんな問いがふっと湧きあがった。頭を振って、頭の中から追い払う。


 でも、今夜はどうなる? 

 また、彼と同じベッドで眠るのだろうか? 
 熱も下がれば意識もはっきりしてしまい、横に眠る彼を意識せずにいられる自信がない。勿論、そんな事は彼には言えないが。


 やはり、こういう場合は、私がソファーで寝るのが謙虚な考えというものではないだろうか?


 私は、頭の中で自分の知る彼の情報すべてを整理しはじめた。
 同じ企画部になったのは数年前。同じチームになった事はないが、隣りの島に座る彼を時々見かける程度だ。普段は愛想がよくて、誰にでも気軽に声をかけるタイプだ。しかし、何度か同じ会議に出て、彼の筋の通ったハッキリとしたものの言い方や、厳しい発言をする姿も見た。仕事の出来る男だ。

 だけど、私は何度も彼に睨まれる事があった。
 なのにどうして、こんな状況になってしまったのだろうか?


 考えれば、考えるほど今夜も彼と同じベッドで寝る事は出来そうにない。


 夕食を済ませてから、二時間ほど過ぎていた。処方された風邪薬を飲んだのに、目が冴えてしまっている。

 いっそうの事、寝てしまえれば、どれだけ楽だろうか……


 私は、覚悟を決めベッドから起き上がった。
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