恋を忘れたバレンタイン
結局買い置きしてあったインスタントのスープだけで昼食を済ませた。


 昼休みが終わり、社員がデスクに戻り始めた。

 ふと、入り口へ目を向けると、グレーのスーツの背中が目に入った。向かいに可愛らしい女の子がピンクの袋を差し出している。
 多分、総務の子だろう? 後ろ姿だが、彼だと分かった。少し俯き加減の女の子に、彼がどんな表情をしているのかは、こちらかからは見えない…… 
 愛想のいい彼の事だ、当たり障りなく受け取っているのだろう…… 

 どうでもいい事だと思いなながらも、チラリと姿を見てしまう。突然、彼がクルリと向きを変えた。

 えっ? 

 彼と目が合ってしまった。

 慌てて目を逸らしたが、一瞬だが、彼は私を睨んだ。
 まただ……
 何故、私は彼に睨まれなければならないのだ。
 一体、何をしたというのだろう。

 しかも、私は先輩で別の課とはいえ私は主任だ。
 いつも、愛想のいい彼が、何故あんな目をするのだろう? 
 一度きちんと話をした方がいいのだろうか? 
 いや、私の気にし過ぎかもしれない。


 そんな事より、早く仕事を終わらせてしまいたい。
 定時に帰って休んだ方がよさそうだ。重い頭をなんとか動かし、パソコンにデーターを打ち込み始めた。
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