恋を忘れたバレンタイン
三時の休憩の頃には、喉がヒリヒリと痛みだしていた。暖かいお茶を飲みたいと思うが身体が重い。


「加奈さんごめん…… お茶買って来てもらえないかな?」

擦れた声が出てしまう。

あまり私用のパシリ的に部下を使いたくはないが、どうにもならない。


「いいですよ。私もコーヒー買いに行くところですから…… でも、主任、声擦れてますけど、大丈夫ですか?」


「ええ、ごめんなさい。加奈さんの分もこれで買ってね」

私は、財布から五百円玉をだし、加奈に手渡した。


「ありがとうございます。」

 加奈は、五百円玉を握ってオフィスを出て行った。
 ほんの数分で戻って来た加奈は、頼んだお茶と、ほっとレモンとカップのコーヒ―を手にしていた。
 そして、私のデスクの上に、お茶とほっとレモンを置いた。


「喉が楽になると思いますよ。無理しないで、早めに帰られたらどうですか?」


「ありがとう。この資料だけまとめたら、帰らせてもらうわ」


「ええ、まだ、沢山あるじゃないですか」

 加奈は、心配そうに眉を潜めた。

 私は、ほっとレモンに手を伸ばし蓋を開ける。暖かい酸味が、喉にじわっ―と渡りほっと息をつく。

 加奈の、こういう気が利くところは、仕事にも出ていて高い評価を出していると思う。


「ああ、本当。楽になったわ。もう少し頑張れそうよ」


「あんまり無理しないで下さいね」

 例え口だけであったとしても、心配してくれる人も居ない私にとっては嬉しい言葉だ。
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