恋を忘れたバレンタイン
 顔を上げた彼女の表情は、明らかに静止していた。
 俺が、声を掛けると思っていなかったのだろうか?


 当たり障りのない仕事の話に、彼女も平然と答える。
 だが、このままでなんて終わらせない。


 「主任、今度の開発チームのリーダー俺になったんです」


「凄いじゃない」

 思いがけず彼女は驚き、俺と目を合わせた。
 やった、チャンスだ。


「でも、色々と分からない事ばかりで、主任、相談に乗っていただけませんか?」

 俺は、後輩らしく頭を下げた。
 彼女の事だ、部長の前で簡単には断れないだろう。


「そんな、私なんて相談に乗れるほどのものは無いわよ。部長の方が適格な判断して下さると思うわ」

 彼女が、部長へ目を向けた。
 部長よ、理由は何でもいいから断ってくれ。


「ああ勿論、俺も協力させてもらうよ」


 何で、引き受けるんだよ。少しは俺の気も考えてくれと、むちゃくちゃな思いが漏れる。

 箸を持ち、口には物を入れるが、味など感じる余裕もない。


「ありがとうございます」

 俺は、そう言って愛想笑いをしながら、熱い視線を彼女に向けた。



「それでは、お先に……」

 逃げようとする彼女を、なんとか引き止めようと俺は必至だった。


「主任、今日はお時間ありますか? スターティングメンバーの事で相談したいのですが……」


「ごめんなさい…… 午後は、打ち合わせがあって何時に終わるか……」

 彼女が、嘘でも申し訳なさそうに眉を下げる。

 だが、そんなに簡単にあきらめる程、俺は軽い気持ちで彼女に接している訳じゃない。
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