ユーレイとあたし。
「ごめん、彩奈。別れてほしい」
「…………え?」
彼が放った言葉の意味が理解できるまでに、あたしは十二分に時間を催した。
いや、表面的な意味はわかる。別れる、というのは、あたしとあなたはもう恋人じゃなくなる、ということだ。
でも、それが自分に向けられていることが、にわかに信じられなかった。
「……えっ、ちょ、ちょっと待って」
「好きな人が出来たんだ」
目の前にいる彼は、昨日までと何も変わらないように見える。あたしがよく知っている、彼その人だ。
……スキナヒトガ、デキタ?
「……そ、れは、あたしのことは、
もう……好きじゃない、ってこと?」
少しずつ噛み砕くように飲み込んだ言葉に、あたしは途切れ途切れに言葉を返す。
そのとき初めて、淡々としていた彼の表情が少し歪んだ。
「……ごめん」
……ああ。
もう、だめなんだ。
指先から自分がゆっくり凍りついていくような、
あたしはそんな感覚に、彼が教室を出ていってからもずっと、呆然と立ち尽くしていた。