海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!


 出航を翌日に控え、俺は自宅で最後の身支度に追われていた。そんな俺のもとに、陛下付きの筆頭侍従であるブラッドが直々にやってきた。
「アーサー提督、貴殿いったいどれだけ長湯をするつもりですか! 陛下がアーサー提督との目通りを望んでおられます。いつまでも風呂に浸かっている場合ではありません、サッサと参りますぞ!」
 俺はその時、湯船に寄りかかり、立ちのぼる湯煙を眺めながら夢心地に鼻歌を歌っていた。
 突然湯煙を割って現れた既知でもあるブラッドの姿に、俺は本気で明日からの任務の辞退を申し出るべきかと思案した。
「……いかん、湯気の向うにブラッドの幻影が見える。いや、俺の耳は今さっき幻聴までも拾っていたな。……なんと、俺はいつのまにか夢と現の区別もつかなくなっているようだ。これは昨今、都の医師が心の病として提唱した解離性障害という疾患ではなかろうか? 明日はついに出航というに、これは大変に由々しき事態……。このような体調で俺は、陛下より賜った任務をきちんと遂行できるのであろうか? ……あぁ、ブラッドの幻影までもが迫ってくるではないか」
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