愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
そして中学2年生の夏、ずっと母の身勝手を許してきた父が、母に離婚を言い渡した。

後になって知ったことだけど、母は多額の金銭を若い男たちに貢ぎ、嫁入りのときに持ってきた自分の貯金だけでなく、家計をやりくりするために作られていた口座の金が底をつくまで散財していたらしい。

父から頼まれて生活費をおろそうと銀行に行ってそれに気付いた道代さんが、金の使い込みの件だけでなく、俺が生まれて間もない頃から母がまったく育児をしていないことや、結婚当初から外で男を作って遊び回っていることを父に告発したそうだ。

家政婦は雇い主の家庭の事情には必要以上に踏み込まないことが鉄則だから、余計なことは言ってはいけないと母の身勝手な行動にも黙って我慢してきたけれど、道代さんの我慢も限界だったのだろう。

政略結婚で母と結婚した父は、母の母親、つまり俺の祖母にあたる人に事情を話し、母の浮気にはずっと目をつぶってきたけれど、育児放棄や浮気相手に貢ぐために生活費にまで手をつけた事実を知り、これ以上はもう面倒みきれないので離婚したいと申し開きしたそうだ。

祖母は父に対して平謝りで、母の使い込んだ金は祖母が返済し、何ひとつ揉めることなく離婚は成立した。

祖母は両親が離婚しても俺に会うことだけは許して欲しいと懇願したそうだ。

祖母が孫である俺をとても可愛がり、実の娘である母よりも大事にしてくれていることはわかっていたから、その願いだけは聞き入れたと父は言っていた。

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