愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
今後も付き合っていればぶち当たる壁なのだろうけど、今はまだその壁を越えるときではないと俺は思う。

「とりあえず今は受験に集中したい。俺はうちの大学じゃなくて、もう少し上のランクの別の大学に行くつもりだから、今ここで気を抜くわけにはいかないんだ。入試が済んだら今よりもっと会えるから、もう少しだけ待ってて」

「うん……わかった」

なんとかわかってくれたようだとホッと胸を撫で下ろした。

それから吉野はコーヒーを飲んで少し落ち着いたあと、俺の勉強の邪魔になると悪いからと言って帰って行った。

吉野が帰ると、リビングの掃除をしていた英梨さんは、意外そうな目をして俺を見た。

「ずいぶん早いお帰りで」

「俺の勉強の邪魔をしたくないんだって」

「ふーん……私はてっきり……」

英梨さんがそこで言葉を濁したので、さっきの言葉がいやみとか皮肉の類いなのだと気付いた。

「てっきり……何?俺と吉野が部屋でいかがわしいことでもしてると思ってた?」

「いいえ、そんなことは思ってませんよ。夕食も二人分ご用意した方がいいのかなと思ってただけです」

嘘つけ、俺たちが部屋でいちゃついてるとか、絶対に思ってただろう?

俺はそう言い返してやりたいのをグッとこらえて、勉強の続きを始めた。


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