というわけで、結婚してください!
玄関の大きな重い扉を尊が開けたが、広い玄関ホールは、しんとしていた。
灯りもついていない。
……ますますダンジョンっぽくなってきたな、と鈴は思う。
「武田、居ないのか?」
と尊が呼びかける声が反響する。
どうやら、執事長である、武田数志の父親を呼んでいるようだった。
「お返事ないですね。
帰りましょう」
と入り口でUターンしようとした鈴は首根っこをつかまれる。
「待て。
お前がまず、こっちに来ようと言ったんだぞ。
決着をつけるために」
「だ、だって、誰も居ないですよっ」
と既に逃げ腰になっている鈴が言ったとき、急に明かりがついた。
二階から、
「誰も居ないわよ」
と声がする。
いや、貴女、居るじゃないですか、と突っ込みたくなったが、鈴はぐっと堪えた。
湾曲する階段の上、二階フロアからこちらを見下ろしている濃紺のドレスの女が誰だかわかったからだ。