というわけで、結婚してください!
 征が居る幻にちょっと怯えながら、ドアを開けたが、真っ暗な部屋の中には誰も居なかった。

 荷物もないので、隠れるところもない。

 スマホを鳴らすと、すぐに尊が出た。

 まだ下に居るようだ。

 やっぱり姿が見たくなって、玄関のドアを少し開けて覗く。

 駐車場の枠からはみ出しているロールスロイスはまだそこに止まっていた。

 尊の姿はよく見えないが、明かりのついた彼の車を見ただけで、なんだかホッとする。

 だが、すぐに気づいた尊に、

「だから、出て来るな、鈴っ。
 危ないだろうが。

 早く入って鍵をかけろっ」
と言われてしまう。

「あっ、すみませんっ。

 入ります。
 行ってください」
と言って中に入ると、

「じゃあ、遅くなるかもしれないから、先に寝とけよ。
 おやすみ」
と言って、尊は出て行ったようだった。
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