というわけで、結婚してください!

 

「シャンパンとフルーツ、お届けしてきました」

 まだ稼働していないフロントで、ノートパソコンとカレンダーを見ながら、内装作業の進行状況をチェックしていた窪田《くぼた》は顔も上げずに、スタッフに、

「ああ、ありがとう」
と返事をしたあとで、

「どうだった? 尊様は」
とその男性スタッフを呼び止め、訊いた。

 そのスタッフもまた、かつて、清白の屋敷に勤めていたことのある男だった。

 男は、にんまり笑い、
「とても楽しそうな無表情でらっしゃいましたよ」
と言って、では、と行ってしまった。

 ……目に浮かぶようだな、と窪田は思う。

 相変わらず、表情に出さずに楽しそうだったのだろう。

 尊は、幼い頃にいろいろあったせいで、楽しいときに、楽しいという感情を出さないくせがついているようだった。

 本当に不器用な人だ、と思ったとき、フロントの電話が鳴った。
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