恋愛零度。
「ーー唯川さんは?」
「え?」
急に名前を呼ばれて、私はぼんやり眺めていたグラウンドから視線を戻した。
前の席の三好さんが、ニコニコ笑いかけてくる。三好さんは、肩までのポニーテールが似合う、元気な女の子。
「唯川さんって、好きな人とかいるの?」
私は一瞬ぽかんとして、でもすぐに答えた。
「いないよ」
「えー、じゃ、いままで好きになった人は?」
「ないけど」
……なんなんだろう、急に。
「へえー、さすがだねぇ」
「な、なにが?」
「ほら、唯川さんって、いつもクールだから。好きな人とかいるのかなあって、ちょっと気になって」
「はぁ……」
私に好きな人がいるかどうかなんて、知ってどうするんだろう。
「ね、それって、『恋愛低体温症』っていうやつじゃない?」
今度は、その隣の渡辺さんが言った。
渡辺さんは、ふわふわした栗色の髪の、小顔で目が大きな可愛らしい子だ。
「なにそれ?」
「あのね、この前読んだ雑誌に書いてあったんだけど、恋愛に積極的になれないとか、気分があがらないとか、そういう人のことを言うんだって」
余計なお世話だ。
私はちょっとムッとしつつ、でも、たしかにその言葉は、しっくりくる気がした。
『クール』『冷たい』
昔から、そう言われることが多かった。恋愛に夢中になっている人のことも、くだらないとか、馬鹿みたいとか、冷めた目で見てしまう。
そんな私には、ぴったりの言葉かもしれない。