オトナの事情。
『すみません、お待たせしてしまって!』
駆け足でこっちに向かう彼女が、ふと足を止めて俺の後ろの誰かに会釈をする。
誰かと思って俺も振り返れば、お互いの事務所の社長とドラマのプロデューサーが、共だって歩いてくるところだった。
「おお!いらっしゃいましたか!いやいや、すいませんね。」
監督もそこに加わって、別室に招かれた。
なんだ?プロモーションの話か?
そういえば、放送開始日も近付いていた。
「時間もないので単刀直入に言わせていただきますとね…」
口を切ったのはプロデューサーだ。
「思った以上にドラマの期待値が伸びなくて、悩んでるんですよ。」
…主演2人を招いて、それを言うか。
俺はまだ良いとしても…彼女は、初めてなのに。
泣くか?と思ってふと横を盗み見ると、狭間ルナは、顔色1つ変えていない。
おお、なんだ。
むしろ動揺しているのは、俺の方か?
重い沈黙に、監督がフォローを入れる。