Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~
「お、おしゃれもしてない恰好……褒められても……」
「俺はすっぴんの方が好きですしね。なんたって脚フェチなんです、あの日の花村さんの足、よかったなあ」

確かにそれ以降会う時はさすがに太腿は出していない、さすがに化粧もする、濃くはないがファンデーションとマスカラと口紅は欠かさない。 一瞬であろうと足がよかったと褒められて、さすがに恥ずかしさはマックスだ。

「藤堂さん! どこ見てるんですか!」
「仕方ないでしょ、フェチなんだから。瞬時に見て記憶するくらいします」

と言った藤堂の視線が下がるのを感じた、莉子は慌てて紙袋で自身の足を隠す。 レギンスを履いていて生足と言う訳ではないが、それでも意識をもって見られるとなれば話は違う。

「花村さんはないの? 男性の好きなポイント」
「ないですっ、そんな風に男性を見たことがないですから!」

莉子は失礼します、と怒ったように言って、藤堂の脇をすり抜けて歩み去る。

藤堂は振り返り、その背中を見送った。ミリタリー風の張りのあるスカートの裾を揺らしながら去っていく莉子を、じっと見ていた。

「──まあ、好きなのは足だけじゃなくて、尻や指も好きですけどねえ……」

食事を切り分け、口元に運ぶ仕草を思い出していた、莉子の指は日焼けした経験すらなさそうに白くて細かった、握り締めたくなる衝動を度々抑えている。 そして、スカートに隠されていても判る、滑かな曲線を帯びた臀部に微かに下着のラインを感じる。藤堂は思わず口元を、ハーブの袋で隠した、いやらしくにやけそうになるのを堪える為に。

「──マジで……我ながらよく我慢してるぜって、感心してるよ」

小さな声で呟いていた。


***


翌日の約束の時間。 莉子はテーブルで食事を待っていた、そこへプレートを持って現れた藤堂は、思わず「あ」と言っていた。

莉子は恥ずかしそうに藤堂を見上げる。

化粧に詳しくない藤堂にだって判る、莉子は今日はとても薄化粧だった。初めて会った日に近い。
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