Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~



数日して『無房』の引き戸も直った。それを目視して階段を上がり始めた時、階段の違いに気付く。

「──ん?」

いつも手摺りにかけられている小さな木製の看板がない。確かにひっかけてあるだけだが、台風が来ても飛んだことはないのに。

「はて?」

すぐ周囲を見回したがない、本格的に飛ばされたか、あるいは誰かが持ち去って──。その時見つけた、階段下の空きスペースにそれは落ちていた。

「──」

半分が真っ黒に焦げていた。





更に数日後、尊が出勤して階段を上がると、すぐに異常に気付いた。 出勤は概ね尊が一番最初だ。

もう一人、当番制で鍵を預けてはいるが、尊は9時には出勤するようにしていて、他の者は10時と言い渡してあるので、大抵は尊が一番乗りとなる。
今日も誰よりも早く出勤したが。

「──おいおい」

入口はガラス製のドアだ、それが粉々に砕けてなくなっていた。

「……まずは、警察か?」

先日の一階のボヤ騒ぎもある。看板が焼けた件は誰にも言っていないがそれも懸案事項だ。その看板はまだ新しいものはできておらず、ウェイターの一人がパソコンで作ってくれたものをパウチして貼ってあるだけだ。

尊はすぐにスマホを取り出し110番へ連絡しながら、ドアにかけられたカーテンを指で捲った、閉店時にだけドアにかけるものだ。 中は──ものの見事に荒らされていた。

テーブルも椅子もひっくり返り、置かれたいくつかの植木は抜き取られ、鉢はひっくり返され土が撒かれている。照明も割られて床は悲惨な事になっていた。油や洗剤、アルコール臭などいろんなものが入り混じった臭いもする。

「──どこのどいつだ」

尊が舌打ちをすると、コール音が切れた。頭に昇っていた血が一瞬にして冷静さを取り戻す。





階段下にウェイターが立っていた、莉子は名前こそ知らないが、お互いよく見知った仲だ。

「あ、こんにちは」

ウェイターから挨拶した。

「こんにちは、今日はどうしたんですか?」
「それがですねえ、今日は店を開けられないので、俺がここで案内を……ああ、あなたならいいのかな、オーナーは上にいます」

ウェイターは気を利かせたのか階段の上を指さした。莉子は訳も判らず上がっていく。 上がる度に少しづつ視界にその様子が見えて、莉子は息を呑んだ。 階段上に集められたガラス片、開け放たれたドアから漂ういつもなら感じない匂い──。

「……ど、どうしたの……!?」

店内には尊と、何人もの警察官がいた。皆がいるあたりだけ乱暴にだが片付けられていた。
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