Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
テレビを点けろと言うと、田所は慌てて従った。チャンネルを合わせるとすぐに莉子のアップの顔が映る。
「──莉子……!」
Caccoの衣装と化粧をしているが、当然香子にははっきりと判る、そこにいるのは莉子だった。少しはにかんで微笑む、優しい瞳の莉子。顔は鏡を映したようにそっくりなのに。まさしく左右逆に映る鏡のように、真逆の性格の双子の妹。
『この曲は、本当はCacco with bangで歌おうと作ったもので……』
小さな声で話していたのは曲作りの裏話だった、それは台本にはあったことだが、よりリアリティーが増している事だろう。
「具合が悪いとは話したみたいで、なんとかうまく進めてるみたいだよ」
嬉しそうな田所の声に、香子は眉間に皴を寄せる。
「……誰の差し金?」
「え? リコちゃん出したこと? 専務かな、社長に電話した時近くにいたみたいだから」
「……ふうん」
香子は画面の莉子を睨み付けながら、田所にベッドの座面を起こさせる。田所は寝てた方がいいと進言したが、売れっ子の香子の指令には逆らえないらしい。ベッドのリモコンを操作して、テレビの画面も見えやすい位置に移動した。
香子は難しい顔をしたまま、莉子を見つめていた。
*
暫く待ったが、莉子は帰らない。尊は諦めて自分の部屋に戻った、こちらもリビングに明るさはあった。かなりの音量の音楽が聞こえる、拓弥がテレビを観ていると判った。
拓弥が週末の音楽番組を楽しみしているのは知っている、だが既に放送時間は終わっている時間の筈だった。録画したものでも観ているのかと溜息をひとつ吐いてリビングへ向かう。
「おい、拓弥……」
音が大きい、と注意しかけて止まる。
「あ、兄ちゃん、お帰りー」
拓弥は笑顔で振り返り応える、だが尊とは視線が合わなかった。
尊の視線の先には、テレビ画面いっぱいに映るCaccoがいた。それから映る鳩中の姿に、拓弥がよく観ている音楽番組だと判る。
「……録画?」
「ううん! この番組は生でやるのをウリしてるから! ああ、今日は特番なんだ! Caccoオンパレードなんだぜ!」
画面はCaccoに転じた、微笑み喋るCaccoに──。
「──莉子」
尊は呟いていた。
「へ???」
拓弥は尊とテレビとを交互に見比べていた。
*
鳩中の質問や話題に、莉子はなんとか答えていた。鳩中も小島も十分気遣ってくれているのが判る。それだけに、莉子の罪悪感は募っていく。
(疑ってない……私が別人だなんて)
そもそも香子が双子などと知らないのかもしれない。知っていても芸能界には縁がない妹が身代わりになるなどとも思っていないのだろう。
嘘に嘘を重ねて、莉子は笑顔すらきつくなっていた。そして華やかなステージで歌い踊る、香子が育てているアーティスト達。莉子のトークの時間を減らせるようにと、鳩中は登場の前後で彼らを莉子の隣に座らせて、彼らにも話を聞いてくれた。皆から浴びる煌めく瞳と、温かい賛辞に、莉子は肩身が狭くなる。
(私じゃない)
しかし誰も気づかない、今、ここにいるのはCaccoだった。
(──これが、香子がいる世界)
アーティスト達は皆輝いて見えた、夢に向かって邁進する姿に莉子は当てられてしまう。香子もまたそうなのだろう。そしてテレビを通して見えるきらびやかな世界の裏の薄暗い舞台裏でスタッフ達は独楽鼠のように働いている。
自分もまたそうだった、決して表に出ない仕事をしている、そんな嘘の世界で芸能界はできている。
そして今、莉子を香子に仕立てるために多くの人々が、そうとも知らずに動いている、Caccoと言う虚像を守る為に。
(香子が、いる世界……)
心に疑問を感じながらも、莉子は言われた事を処理していた。二曲だった歌は一曲にしてもらった、それを終えてまたMCが待つソファーに腰掛ける。
「圧巻でしたねえ」
小島の声が胸に刺さる。
「では、最後に……」
鳩中が締めのトークに入る。
「Caccoに一言もらいましょうか」
台本ではアルバムの宣伝と、ツアーの開始を知らせる内容だった。
「──莉子……!」
Caccoの衣装と化粧をしているが、当然香子にははっきりと判る、そこにいるのは莉子だった。少しはにかんで微笑む、優しい瞳の莉子。顔は鏡を映したようにそっくりなのに。まさしく左右逆に映る鏡のように、真逆の性格の双子の妹。
『この曲は、本当はCacco with bangで歌おうと作ったもので……』
小さな声で話していたのは曲作りの裏話だった、それは台本にはあったことだが、よりリアリティーが増している事だろう。
「具合が悪いとは話したみたいで、なんとかうまく進めてるみたいだよ」
嬉しそうな田所の声に、香子は眉間に皴を寄せる。
「……誰の差し金?」
「え? リコちゃん出したこと? 専務かな、社長に電話した時近くにいたみたいだから」
「……ふうん」
香子は画面の莉子を睨み付けながら、田所にベッドの座面を起こさせる。田所は寝てた方がいいと進言したが、売れっ子の香子の指令には逆らえないらしい。ベッドのリモコンを操作して、テレビの画面も見えやすい位置に移動した。
香子は難しい顔をしたまま、莉子を見つめていた。
*
暫く待ったが、莉子は帰らない。尊は諦めて自分の部屋に戻った、こちらもリビングに明るさはあった。かなりの音量の音楽が聞こえる、拓弥がテレビを観ていると判った。
拓弥が週末の音楽番組を楽しみしているのは知っている、だが既に放送時間は終わっている時間の筈だった。録画したものでも観ているのかと溜息をひとつ吐いてリビングへ向かう。
「おい、拓弥……」
音が大きい、と注意しかけて止まる。
「あ、兄ちゃん、お帰りー」
拓弥は笑顔で振り返り応える、だが尊とは視線が合わなかった。
尊の視線の先には、テレビ画面いっぱいに映るCaccoがいた。それから映る鳩中の姿に、拓弥がよく観ている音楽番組だと判る。
「……録画?」
「ううん! この番組は生でやるのをウリしてるから! ああ、今日は特番なんだ! Caccoオンパレードなんだぜ!」
画面はCaccoに転じた、微笑み喋るCaccoに──。
「──莉子」
尊は呟いていた。
「へ???」
拓弥は尊とテレビとを交互に見比べていた。
*
鳩中の質問や話題に、莉子はなんとか答えていた。鳩中も小島も十分気遣ってくれているのが判る。それだけに、莉子の罪悪感は募っていく。
(疑ってない……私が別人だなんて)
そもそも香子が双子などと知らないのかもしれない。知っていても芸能界には縁がない妹が身代わりになるなどとも思っていないのだろう。
嘘に嘘を重ねて、莉子は笑顔すらきつくなっていた。そして華やかなステージで歌い踊る、香子が育てているアーティスト達。莉子のトークの時間を減らせるようにと、鳩中は登場の前後で彼らを莉子の隣に座らせて、彼らにも話を聞いてくれた。皆から浴びる煌めく瞳と、温かい賛辞に、莉子は肩身が狭くなる。
(私じゃない)
しかし誰も気づかない、今、ここにいるのはCaccoだった。
(──これが、香子がいる世界)
アーティスト達は皆輝いて見えた、夢に向かって邁進する姿に莉子は当てられてしまう。香子もまたそうなのだろう。そしてテレビを通して見えるきらびやかな世界の裏の薄暗い舞台裏でスタッフ達は独楽鼠のように働いている。
自分もまたそうだった、決して表に出ない仕事をしている、そんな嘘の世界で芸能界はできている。
そして今、莉子を香子に仕立てるために多くの人々が、そうとも知らずに動いている、Caccoと言う虚像を守る為に。
(香子が、いる世界……)
心に疑問を感じながらも、莉子は言われた事を処理していた。二曲だった歌は一曲にしてもらった、それを終えてまたMCが待つソファーに腰掛ける。
「圧巻でしたねえ」
小島の声が胸に刺さる。
「では、最後に……」
鳩中が締めのトークに入る。
「Caccoに一言もらいましょうか」
台本ではアルバムの宣伝と、ツアーの開始を知らせる内容だった。