野獣は時に優しく牙を剥く

「ただ、お金がかかるので立て替えていただいた借金の返済についてご相談させていただきたいです。」

 こんなの甘えだ。
 借金がある身で、借金をしてる側の人間が毎月の返済額を少しにして返済期限を延ばしてもらいたいと申し出るのだから。

「そのことについては俺も話したいことがあるから、まとめて後からゆっくり話そうか。」

「……はい。」

 とりあえず、言わなきゃいけないことを伝えられて緊張が緩む。

 離れて立っていた谷から腕が伸びて大きな手は頭ごと澪を引き寄せた。

 緩んだ緊張とともに足が覚束ない澪は簡単に彼の体に寄りかかった。

「よく決断したね。
 仕事をしながら勉強するのは大変だと思うけど頑張って。」

 鼻の奥がツンとして返事が返せないし、寄りかかる体を元に戻せない。

 谷に肯定してもらえた。
 それだけで泣けてしまいそうだった。

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