野獣は時に優しく牙を剥く

 けれどその心配は杞憂だった。
 少し悪戯っぽい顔をした龍之介は悪巧みでもしているかのようだった。

「若くて可愛い奥さんをもらうなら金を持ってればいいってね。
 年齢と美貌と金に名声。
 結婚相手に相応しいかどうかは、そのバランスによるそうだよ。」

 若くて……可愛い……。
 もしかして私のこと!?

 楽しそうに話す龍之介に澪は口を尖らせた。

「からかってますよね?」

「まさか。本心だよ。」

 嘘ばっかり。顔が笑っている。

「顔と金、両方を持ってる俺なら16下でも平気かってこと。」

 自分で見目麗しいって言い切っているようなものだ。
 本当にその通りに整った顔立ちなのだから嫌になる。

 けれどそうやって澪を呆れさせるまでが、きっと龍之介の思惑通り。

 琥珀色の双眼は澪を捉えてにっこりと微笑んだ。

「だから澪はお金がないことや歳が違うことを気に病む必要はこれっぽっちもないってこと。」

「もう。」

 不貞腐れながらも彼の胸に顔をうずめた。
 彼は何もかもお見通しで、いつだって澪の不安を取り除こうとしてくれる。

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