野獣は時に優しく牙を剥く

 こういう龍之介だからこそ澪は結婚に踏み切れたのだと思う。

 もうすぐ4月。
 通信制の大学が始まる。

 教材はもう手元に届いていて、少しずつ勉強は始めている。

 生活は今とさほど変わらないかもしれない。
 結婚してからも祖父や双子と一緒に暮らすと言ってくれた龍之介へ遠慮せずに甘えることにした。

 いつか来る祖父とのお別れの時も胸を張って送り出せるように、泣きじゃくっても前を向けるように、彼と歩んでいこうと心に決めた。

 だからこのマンションも近々手放す予定だ。
 投資用に貸し出してもいいと言っていたから、実際に手放すのとは違った形になるとしても今みたいに自由に入ることは出来なくなる。

 ここのマンションにも思い出がいっぱいあって、離れるのを少しだけ寂しく思った。
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