野獣は時に優しく牙を剥く

 そんな色々を知る由もない澪は陽だまりのような笑みをこぼす。

 澪の手には俺がプレゼントした結婚指輪と、澪のおじいちゃんから譲り受けた婚約指輪が光る。

 古風な婚約指輪に合うように控えめなデザインにした結婚指輪。
 2つの指輪が澪の指にはめられて輝く様を見るたびに幸せを噛み締めた。

 俺はある人影を見つけて、澪の隣から気づかれないように離れた。
 そしてその人へ声をかける。

「見に来てくださったんですね。」

「ごめんなさい。
 私が来るべきところじゃないのに。」

 澪の可愛らしい顔立ちとよく似ている女性が恐縮したように頭を下げた。
 彼女は澪の母親だ。

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