野獣は時に優しく牙を剥く
「本当に挨拶されるつもりですか?」
固い顔で聞いても当の本人はどこ吹く風。
「あぁ。もちろん。
僕が全部話すから相川さんは隣に居てくれるだけでいいよ。」
にこやかに微笑まれて澪は口を噤んだ。
こうなってしまっては彼に従うしかなさそうだ。
覚悟を決めて玄関の前に立った。
自宅は古い一軒家。
周りの都市開発が進む中、しがみつくようにこの場に住み続けてきた。
澪とって大切な場所だ。
息を大きく吸い込んで思い切って扉を開ける。
そして中へと呼びかけた。
「ただいま。おじいちゃん。
突然で悪いんだけど、会社の人が挨拶したいって。」
古い廊下をギシギシ音を立てながら「どうしたー。こんな時間に」と祖父が顔を出した。
祖父と顔を合わせると言っていた通り、谷が澪に代わって話し始めた。