野獣は時に優しく牙を剥く
長い体を折って頭を深く下げた姿が目に映りギョッとする。
「夜分遅くにすみません。
澪さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいています。
谷龍之介と申します。」
谷が口走った内容が上手く処理できなくてフリーズする横で祖父は驚きつつも満面の笑みで出迎えた。
「そうかそうか。婿さんか。
こんなとこまで来てくださって。
ほら、澪、突っ立てないで茶でも出しんさい。」
「お、おじいちゃん!待って。ちがっ!
谷さんも何言って!!」
澪の言葉など聞く耳を持たない祖父は「玄関先じゃなんだ」と、谷を奥の部屋へといざなっている。
谷は谷で「では、お言葉に甘えて」と靴を脱いで祖父の後に続く。
「おじいちゃん!違うから!ねぇ!!」
2人の後を追って懸命に言ってみても取りつく島がない。
「照れんでもいいから茶を持ってきな。」
「澪、僕なら大丈夫だから。」
にっこり笑ってみせる谷を見て、あなたが一番大丈夫じゃないんです!!と睨んでみても彼には無駄なことだった。