嫌われ者の小鳥遊さんは、好かれることに慣れてない
「…何でしょうか」

動揺を悟られない様に無表情を貫きながらその人物に問い掛ける。



その人はゆっくりと私に顔を近づけると、全く感情の読めない冷たい表情で一言、






「好きだ」

と口にした。




頭の回転が一瞬停止する。思考回路が上手く機能せず、私の唇からは短い呼吸が繰り返されるだけで言葉を発することが出来なかった。


…この人は、いきなり何を言っているんだろう。



一瞬の思考停止ののち瞬時に状況を理解した私は、微かに頭を下げると本を手に本棚へと足を進めた。


見るからに頭脳明晰そうな風貌、私よりも幾分も背が高くスラっとしていてキチンと着られたブレザーが、比較的校則の緩いこの学校では珍しかった。


黒髪に涼しげな目元、スッと通った鼻筋と薄めの唇。恐ろしい程造形の良い顔をしているその人は、その容姿の淡麗さが一層冷ややかな雰囲気を増長させていた。




あの一瞬で思いの外良く観察していた自分にも少し驚いたが、例えどんなに見かけが素晴らしかったとしても中身は得体の知れない変わった人物なのだろう。



そうでなければ、初対面の人間にあんな突拍子もない発言をする筈はない。人をからかう様な人物には見えないが、実はそういった悪趣味な趣向の持ち主なのかもしれない。




その先輩の存在を完全に無視して、私は元あった場所に本を戻した。そのままドアへと足を進める。


片手で扉を開き、そのまま後ろ手で閉める間もその人物は私に再び声を掛けようとはしなかった。



結局その先輩とはそれきり言葉を交わすこともなく、私は憂鬱な教室へと戻った。

いつもは私の心の拠り所となっているあの場所、今日はあの人の所為で落ち着かなかった。




ーー明日は誰も居ませんように。

心の中でそう願いながら次の授業の準備に取り掛かるのだった。
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