うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-

 服が乾くまで待っていろと言われても暇である。手持無沙汰となって部屋を見渡すと、本棚が目に入った。

「……ねえ、本棚見てもいい?」
「あ? 好きにしろ」

 本の向きまできっちりと整えられて、本や雑誌がぎっちりと詰まっていた。辞書、参考書、それからスポーツ誌。
 これが高校生男子の本棚かと思いながら見ていったのだが、次第に様子が変わっていく。

「『実録UFO』『月刊オカルトマニア 未知生物との交信』『謎の光 某事件から紐解く宇宙人の存在』……」

 どれも佳乃の予想を超えるものだった。中には毎月買っているらしく、何十冊も同じタイトルの雑誌が並んでいる。これらの本に共通しているのは、UFOやオカルトといったちょっと不思議なものだ。

「……剣淵って、こういうの好きなんだ。ちょっと意外かも」
「悪かったな。なんつーか、そういうUFOとか未確認生命体とか調べたくなるんだ。学校の奴らには話してないから内緒にしてろよ」
「わかったけど……それで、宇宙人は存在するって信じてるの?」

 茶化すように佳乃が聞くと、剣淵は振り返った。

「信じてる」

 あらゆるものを射抜いてしまいそうな剣淵のまなざしは、佳乃が持つオカルト雑誌に向けられていた。子供のようにきらきらと輝いて、楽しそうでもある。

 佳乃からすれば、未確認生命体とか宇宙人とか。そういった言葉は剣淵にこそ似合うと思うのだ。なにを考えているのかわからないくせに、佳乃が修羅場に追い込まれれば関わってくる。さらに外見と異なる、まめで真面目な性格も。佳乃の常識を超えた謎の男である。

 そんなUFOを信じる謎の男は、雨足弱まる外を見る。雨もあがりかけで先ほどより明るくなったが、それでもどんより重たいダークグレーの空を睨みつけて呟いた。

「だからいつか……俺が見つける」

 その横顔を見上げながら、佳乃は剣淵に対する意識を変えようと思った。嫌いなやつだとばかり思っていたのに、深く入り込んでしまえば周りの色が変わってくる。
 雨に打たれてずぶ濡れのクラスメイトを助ける勇気があって、家に招く優しさがある。それから自分の好きなものを語る時のまっすぐさ。悪いやつではないのかもしれない。

 雨があがると同時に洗濯機から乾燥終了のブザー音が鳴った。

 こうして日曜日は終わるのである。波乱が通り過ぎて冷えた体が温まった頃、佳乃の心には晴れやかな空色に変わっていた。
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