うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-

***

 UFOという単語を口にするとどうも具合が悪くなる。今日はまだ落ち着いていると思ったのだが、再びあけぼの山にのぼったあたりから嫌な汗をかくようになった。最初は疲労かと思ったが、ずきずきと響く頭の痛みは以前も味わったもので、疲労だけが原因ではなさそうだ。

 本道を引き返して山頂に到達し、裏道にさしかかった時には、冷や汗どころか目も回る。皆よりも歩くペースが遅れて、最後尾を歩いていた。

「ないねぇ……どこらへんで見たか覚えてる?」
「道から外れて、どこかの斜面をおりたと思う。確か大きな岩か木があって、それに隠れていたはずだ」
「……うーん、おりるのには勇気がいるなぁ」

 剣淵と浮島の会話も遠く聞こえる。荒い呼吸を繰り返しながら、木や草を掴んで支えにしていると、菜乃花が振り返った。

「顔が青いわ。休憩する?」

 座って休めば楽になるのかもしれない。だが刻一刻と時間が減っていく中に休む暇はない。『大丈夫』や『平気』と答えてしまえば嘘になる。慎重に言葉を選んで佳乃は答えた。

「探そう。もうすぐ夕方になるから」

 その一言で察したのだろう。「何かあったら言ってね」と心配そうに話した後、順番を入れ替えて菜乃花が最後尾となった。

 前を歩く剣淵と浮島を見る。どうやら剣淵の記憶にあった岩もしくは木を探しているらしく、たびたび立ち止まっては斜面を覗きこんでいた。

「その友達はどこで消えたの?」
「覚えてねーな。ただ裏道を歩いている途中で後ろを振り返ったらいなくなってた。その後俺が勝手に探し回って、そいつを見つけたのはどこかの斜面を降りたところだ」
「やっぱ下に降りるしかないのかぁ……やだなぁ、泥まみれになったらモテなくなっちゃう」
「蹴飛ばしてやる」

 立ち止まって話していた二人が再び動きだす。

 佳乃もそれを追いかけて、坂をくだろうと一歩踏み出し、伸びた草を掴んだ――のだが。

 くらりと視界が大きく揺れると共に、ぶちんと嫌な音が手のひらから伝わってくる。
 まさかと慌てて自らの手を見れば、掴んだ葉は見事に千切れていた。その千切れた葉の後ろには歩いていたはずの場所があるのだが、角度が異なる。
 視界の隅に空が見えたことで自分の体勢がおかしいのだと悟った。

「佳乃ちゃん!」

 菜乃花の叫ぶ声がする。その時にはもう佳乃の体は落ちていて、足裏にあったはずの裏道の感触もない。枝を掴もうと手を伸ばすのだが間に合わず、鬱蒼と茂る草葉が体中にぶつかり、めきめきぶちぶちと嫌な音をたてていく。


 そうだった――あの夏も、こんな風に落ちていったのだった。視界を流れるように駆け抜けていく草葉の緑色も、斜面の下に葉が溜まってクッションになるのもすべて同じ。

 どす、と嫌な音と共に佳乃の足が地に着く。見上げると、三人がこちらを見ていた。

「三笠! 大丈夫か!?」
「佳乃ちゃーん、怪我はない?」

 急な傾斜となっているが大人ならば登れる程度の高さだ。すぐに裏道へ戻ることができるだろう。

「大丈夫!」

 そう答えて坂を上ろうとした時、ずきりと右足が痛んだ。落ちた時に足をくじいてしまったらしい。ゆっくり歩けばなんとかなりそうだが、この斜面をのぼることは厳しいだろう。

 そこではたと気づく。みんなに答えてしまったが、落ちた時にはもう怪我をしていた。
 佳乃が気づいていなかっただけで実は『大丈夫』ではなかったのではないか。嘘と判定され呪いが発動されるかもしれない。ここで呪いが発動したのなら、巻き込まれるのは剣淵か浮島か。

 しかしいくら見上げていても二人の様子に変化はない。呪いが発動した時の、操られているような独特の空気は微塵も感じられなかった。

 つまり、嘘とみなされていない。安堵しつつも、何かが引っかかる。菜乃花の言葉があったから余計にこの呪いについて疑ってしまうのだろう。この呪いの発動条件である『嘘』の基準とは何なのか。

「ごめん。ちょっと……のぼれないかも」

 佳乃が伝えると、剣淵がすぐさま答えた。

「俺が行く。北郷と浮島さんはこのまま道なりに山を下りてくれ」
「でも、剣淵くんだけじゃ……」
「この下に道があるから、俺と三笠はそっちを通っていく。もしも俺と三笠がなかなか戻らなかったら、人を呼んでくれ」

 菜乃花は不安そうにしていたが、浮島は頷いた。
 土地勘のまったくない菜乃花や浮島よりも、幼少期といえあけぼの山にきたことのある剣淵に任せるのが正しいと判断したのだろう。

「三笠! そこで待ってろ」

 剣淵の叫び声が聞こえてから、佳乃が落ちてきた時と同じように葉や枝の騒ぐ音が響く。見上げると、支えになりそうな太い枝を探し、慎重に下りてきている剣淵がいた。

 運動神経のいい剣淵のことだから大丈夫だと信じている。しかし滑って落ちてしまうのではないかと恐ろしくて、目が離せない。
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