クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
いつも忙しくてなかなか相手にしてもらえない父に構ってもらおうと、いつものように書斎へ訪れたとき、変わり果てたその姿を発見した。部屋の中央で惨殺された父が倒れていて、壁や天井にまで飛び散った血の海と、自分の叫び声が今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。それは、当時十歳だったアンナにとって衝撃的な光景だった。

それからというもの、アンナは医師になるために必要不可欠である“人の生き血を見る”ということができなくなり、希望を絶たれる決定的なトラウマになってしまったのだ。それでもどうにかして人のためになることを、という信念が拭えず得意な料理に役立てるべく薬学の勉強を始めたのだった。

社交界で没落貴族の扱いは、想像以上に風当たりが強かった。
アンナの親族は皆、“殺された親の子”と引き取りを拒否した。「反逆者一家だった」「裏社会とつながりのあった家だった」などと、周囲から根も葉もない噂を立てられ、コンラッドが死んでから手の平を返したようにぱったりと親交が途絶えた。それ以来アンナはバンクラールの名を封印し、アンナ・ローランドと名乗るようになったのだ。
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