クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
(いった……)

思い出すと火傷がひりっと疼く。大丈夫とは言ったものの、早いところ手当をしないと痕になってしまうかもしれない。

「今夜はそんなに混んでないほうだよ。ほら、もう順番が回ってきた」

そう言って、アンナの前にいた男が角を曲がってシュピーネのいる部屋に消えて行った。次は自分の番だ。

(ジーク様に何も言わず、勝手に来てしまったけれど……)

後ろを振り向くが誰もいない。今夜の患者はアンナで終わりのようだった。しばらくすると先ほどの男が出てきた。

「じゃあな、あんたもお大事に」

軽く片手をあげてそれだけ言うと、男はその場を後にした。

アンナはシュピーネのいる部屋へ入るべく、ごくりと息を呑んだ。緊張でドキドキと胸が鳴る。

「し、失礼します」

意を決してノックをする。そして部屋に足を踏み入れると……。

目の前の人物を見て、アンナは今まで考えていた言葉が一気に吹っ飛んでしまった。
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