クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
「あの……」

「ん、なんだい?」

ジークの左中指にはめられていた指輪について、なにか知っていることはないかと尋ねようとしたがやめた。

「……なんでもないです」

(あまり国王様のことを詮索するのは無礼だって怒られてしまうかも……)

しかし、風来の貴公子と国王の指輪が同じものだとすれば……。

(同一人物ってこと? ううん、そんなはずないわ)

あんな王都から外れたへんぴな森に、国王ともあろう人がひとりで来るはずがない。

「アンナ? どうしたんだい? さっきから上の空だね、きっと疲れたんだろう」

無意識に一点を見つめ、思いつめたような顔をしているアンナをマーヤが心配げに覗き込む。

「いえ。大丈夫です。ご親切に色々ありがとうございました」

アンナはハッとして慌てて笑顔を作ると、湿布の貼りついている足首を見た。さほど腫れもひどくなさそうだ。それよりも部屋に充満する青臭い匂いが鼻を突き、隣室から苦情がこないか心配だった。

「アンナ。ここで困ったことがあったらなんでも言うんだよ? ウィルも私もあんたの親代わりのつもりなんだ。遠慮はいらないさ」

心優しいマーヤの言葉にアンナはじんとして、笑顔で頷いた――。
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