裏通りランコントル

2.エン




はらはらと降る大きな粒のせいで、段々と視界が悪くなる。
寒々とした空気でかじかんでしまった右手に音もなく落ちたそれは、しばらくその形を保ったまま。

肉眼では細部までをはっきりと確認することはできないが、見ると六角形の小さな粒がいくつも集まっているのがわかった。


雪は好き。
季節が冬に変わっても雪など滅多に降らない地域のため、こうやって珍しくその姿を現してくれると非日常の中に置かれたようでその新鮮さについ嬉しくなってしまう。

毎年この時期が来ると大変な思いをする地域の方には、随分能天気だと怒られてしまうだろうか。


それでも一面が白い布に覆われたこの世界は、透明で幻想的で、儚く美しく、それは夢のように思えるのだ。



『雪が降りそうだ』



見上げた空から降りてくるたくさんの白の中、あのお屋敷で聞いた一言が凛と舞う。

名前も知らない着物姿の彼を思い出した。
そのときにはもう、手の内にあった結晶は小さな水の一粒と変わっていた。


――カサリ。
ふいに自身の左手にある紙袋が存在を強調するように鳴った。

少し開いてみせると、そこには汚れないようさらに透明の袋に包まれた黒いマフラー。
丁寧に折られたそれはこの白い世界に浮き立つような存在感があった。

柔軟剤のような優しい花の香りはもうしない。


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