裏通りランコントル
あれから数日が経った。
なんとなく視線を向けた先。
自身の部屋の隅に置かれたこの黒いマフラーが目に入った。
ぼんやりと「返さなきゃ」と思ったから、それを手にして家を出た。
ただ、家を出る口実を作りたかっただけなのかもしれない。
理由がないと動くことすらままならないから。
《裏通り3番地》。
道のりなんて覚えていないから、辿り着ける確率はかなり低い。あのどちらか2人に会える保証もない。
それでもよかった。
ただ、深く息がしたかった。
憶えている限り、数日前と同じ道をゆっくり進んだ。
前は街の図書館に行こうとしていたんだっけ。
そうそう、この辺りでエンジェルロードの御伽噺を思い出していたんだった。
それからもう少し歩いたはず。
その後にオリに声を掛けられた気がするけれど。
いや、まだまだ歩いた先だったかもしれない。
そうやってわたしの頼りない記憶を起こさせながら進んだ先に、細身の大人がようやく通れるようなほっそりとした暗い小道を見つけた。