サイドキック
「―――……、…ッ」
どくん、と。一瞬大きく鼓動した心臓の意味が分からず思い切り顔を俯けた。
その瞬間舞うように顔を覆う、ブラウンに染色されたロングヘアー。
「………」
「………」
私が何か言うべきなのは分かっている。
でも、浮かんでは消える言葉の数々が音に成ることは無くて。
「―――……やだよ。ヒロヤ相手に女言葉遣うなんて変態になった気分だ」
沢山の時間を要して漸く口に出来たのは、当たり障りのないそんな言の葉だけだった。
「お前な………、変態は無いだろ。実際女なんだから」
「お、女女言うんじゃねぇよ!俺らがダチなことには変わりねぇだろッ」
「まあ」
「―――それもそう、なんだけどな」
表情の読めない顔付きで頬杖を突く男は、ミルクティー色の遊ばせた髪から覗く瞳を細めて微笑を浮かべる。
そんな表情をされても私に言える言葉なんて無いに等しくて、不本意ながら口を噤むしかなかったんだ。