サイドキック





思わずゲッソリとしたカオで看護師さんへと向き直る。そしてアプリ画面を彼女に向けて。



「こんなやつですよ?」

「あら……あらあらあら!やだ香弥ちゃん、羨ましいっ」

「は?」





意図せず口から飛び出した言葉は戻すことができない。不躾に加え強烈な一言を吐き出した私は無かったことにしよう、退散しようと踵を返すけれど―――



「香弥ちゃーん?お姉さんが、手取り足取り教えてあげるわよ?」



――――ヒイッ!




ホラー映画に登場する幽霊顔負けの雰囲気を纏って彼女が近付いてきたものだから、ギクリと立ち止まったままダラダラと内心冷や汗が。と、そのとき。







―――――ガラッ



ノックも無しに開かれた扉によって、取っ組みあった姿勢の私たちの視線はそこへと注がれる訳で。




「……………、百合?」







何だかよく分からない呟きをおとしたヒロヤが登場したことで、看護師のお姉さんは「やだ、誤解しないでー」と一言。

どういう意味だ、この野郎。




「ハヤカッタデスネ」

「どっかの誰かさんが返信くれねーから、心・配・で」

「ソウデスカ」

「既読スルーかテメェ」

「ソウデスネ」

「犯すぞ」

「ソ、…………」




あぶない。今、流れでそのまま同じ言葉を口にするところだった。







< 311 / 362 >

この作品をシェア

pagetop