見えない世界でみつけたもの
「っ! ……電話、を」

 ジンジンと広がる痛みに思わず逃げ出したい気持ちになったが手に持ったコードを手繰っていくと、受話器らしい硬いものが手に触れた。

 俺は受話器を取り上げて電話を掛けようとしたが――
「ボタンは……どれだ」
 見えないから押せない。

 今頃になって、こんな事に気付くなんて――畜生、どうする?

 適当に押してみるか?

「いや、待てよ。確か……」

 と、そこである事を思い出して手探りでボタンを探した。

 電話機には目の不自由な人や、暗い場所でも分かるように『五』のボタンに印が付いていたはずだ。

「あった……これが五だ。じゃあ、このボタンが…………」

 俺は手探りで数字のボタンらしきものを押していった。

 万が一間違っていたら掛けなおすまでの事だ。そう思いながら受話器を耳に当てて待っていると、数回のコールで電話が繋がった。

『はい。こちら救急センター』
「あ、あのっ、すいません!」

 俺は事情を説明して急いで救急車に来てもらう事にした。

「急いでお願いしますっ」

 電話を切り、俺は静の元へと戻るために足元を探りながらリビングを出た。

 先ほどから痛みが増したような気がする足を引きずり、壁に手を突きながら静の元へと歩いていく。

「ゆう……た。どうし……たの」

 そこに静の声は掠れて俺に届いてくる。

「なんでもないよ。今、救急車呼んだから」

 静はこんな状況でも俺の事を心配してくれている。

 お願いだから、今は……今だけは自分の心配してくれ。

 そう思いながら俺は床を這って進む事にした。

 足が痛いのもあったが早く静の元に行きたかった。冷たいタイルにいつまでも寝かしておくのは俺としては嫌だという気持ちもあったからだ。
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