見えない世界でみつけたもの
 ゆっくりと慎重に指で床を確かめるように進む。

「静、すぐに行くからな。待って――」

 不意に手が何かに触れた。

 柔らかく温かいもの――。

「ゆう……た」

 近くで静の声が聞こえる。

 とても近くで俺の耳に聞こえるこの声は静なのか?

 今触れているのは静なのか?

「静っ! 動いてきたのか」
「だ……って、ゆうた……足から、血がで……てる」
「だからって……」
「わた……しは」
「もう喋らなくていいから!」

 静は必死に喋ろうとする。聞いている俺の方が辛い。

 お願いだから。

 もう……喋らないでいいから。

 俺は静の身体を抱き締めていた。俺は無力だ……何も出来ない。

 静、お願いだ……俺を一人にしないで欲しい。

「……あっ」

 そう思った俺の耳に遠くからサイレンの音が届く。

 段々と近づいてすぐそばに止まる音が聞こえた。それと同じくして数人の声が外から聞こえてきた。

「早く! お願いだ――静がっ、静が……」

 俺は叫んでいた。有りっ丈の声を出して叫んでいた。

 玄関を開ける音、数人の男の声。俺の腕から消える温もりと重み。軽くなった俺の身体を掴む腕が、俺を抱き起こしていく。

 そして俺達は救急車に乗せられて病院まで運ばれた。
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