諸々ファンタジー5作品
胸の谷間を見られたもの悪夢なら・・
学校の門を通り、登校して来る生徒に交ざって歩き続ける。
「告美、おはよう。それは誰なの?」
後ろから聞こえたのは光莉の声だけど、いつもの様な無表情で淡々としたのとは違い、明らかに不機嫌を伝えるような早口。
振り返り、説明しようとした瞬間。
光莉は、私と同時で振り返った茅草くんに詰め寄り……噛んだ……!?
…………。
…………。
…………。
え?
光莉。幾らなんでも皆の視線のある場所で、それは無いよ!
沈黙に耐えられず、視線を泳がすように周りを見て驚いた。
誰も私たちに気を留めず、見えていないように何事も無く通り過ぎていく。
あ、これは光莉の能力なのかな。
光莉は茅草くんの首元に噛みついたまま、微動だにしない。
「……光莉?」
遠慮気味な小さな声をかけると、少しの反応。
光莉の唇が茅草くんの首から離れたけれど、牙が刺さっているのが見えて血の気が引く。
あれ、噛むって……そう言う事、なの?
「……あの、その……僕、こんな気持ち初めてで、どうしたらいいのか分からないです。恥ずかしくて、我慢が……ごめんなさいぃ~~!」
いよいよ一日の隷属状態が開始されたようだけど。
茅草くんは、顔を真っ赤にして人見知りの女の子のような反応で逃げてしまった。
「あぁ~~。可愛い獲物を見つけて興奮してしもたわ。てへ?」
無表情で、綺麗な顔の女子が言うセリフじゃないと思うのは私だけだろうか。
確かに彼の外見はそうだけど、男の子を獲物って。
「光莉、茅草くんが好みって事?」
冗談で噛むと言う事はあっても、本当に噛むのを見るとは思わなかった。
だって、この光莉が従属を願うとは考えられない事だから。まして恋愛に使うなど。
「むっちゃ、そそられるわ。これが私の初恋やろか。ふふ。いじめがいがあって……逃がさへんけんな……くく。」
茅草くん、逃げて!
予鈴が鳴り響き、私たちは急いで校舎に走った。
何とかHRに間に合い、息を切らしながら自分の席に座る。
出席の返事を終えて、視線は窓の外に。所々に雲があるけれど、広がるのは青空。
目まぐるしい変化に思考は追い付かず、どこか他人事。
この空に似つかわしくない変化(へんげ)の記憶。恐怖に包まれ、寒気がする。
「告美、HR終わったんよ。なぁ。朝、何があったか訊いてもえぇ?」
声に反応し、目を上げて現実を取り戻す。
無表情だけど、光莉の眼は心配しているのが分かる。
……ん?強烈な視線。
その気配を辿って目を移動させると、教室の出入り口に立っていたのは茅草くん。
頬を染め、こちらの様子を窺い、私の視線に姿を隠す。
視線を光莉に戻すと、少し黒い笑顔で首を傾げた。
……私の額に汗が滲むのは、どうしてだろうか。これが放置プレイってやつなのかな。
どう対応していいのか分からない私を無視して、光莉は話を進める。
「“彼”に会(お)うたんやろ。私が今、言えるんは……“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ。」
配下じゃないのに、あの圧力。言葉に誘発されて、現実で変化(へんげ)をした程……
抗うのは未来。生じる恐れも先が見えない故。
光莉、ありがとう……覚えておくわ。きっと、その言葉が役に立つ日が必ず来るだろうから。
……それにしても、茅草くんは大丈夫なのかな。立ち去った光莉の方向は紛れもなく彼の居た方向。
応援すべきなのに、隷属状態にしたからか戸惑いを覚える。
その日限りの関係……それは、一度限りではないかもしれない。
光莉の眼は笑えない程に真剣で、狙った獲物を『逃がさない』と言っていた。
付き合うって、どういうことなのだろうか。
私が抱いた淡い恋心。“彼”を好きになって当然……私の理想を重ねた……から。
確か鏡のアヤカシだと言っていたけれど。
それは、私の見ていたのが理想を映した姿だったと言うことなのかな。
淡い想いには確かに、その記憶が残っている。
この数日で巻き起こる現実に、付いて行けない。いっその事、夢だったのだと思ってしまった方が楽だ。
吉凶を萌し、不吉を告げる役目……彼には今回、必要なかった。
それは私の悪夢。それも一時のこと。
苦しみと恐怖に包まれたのは確かだけど、今も思い出すだけで震えるけれど……未来は変わってしまった。
……何故…………?
「告美、ちょっといいか?二人で話したいんだ。邪魔する奴が居ないうちに、別の場所に移動しよう。」
走り寄って口早に告げる大鷹くん。息が切れ、慌てた様子。
急かすように私の手を引いて、座っている椅子から立ち上がらせた。
連れられるまま、私は大鷹くんの後を付いて行く。
何の疑問も無かった。大鷹くんを疑うことなど、まして私に害を与えるなど考えもしない。
「朝から見んかった紋葉がこんな所におったわ。そんなに急いでどこに行くん?なぁ、私も連れて行ってくれんかな。」
光莉の声と同時で、大鷹くんの足は急に止まって舌打ちが聞こえた。
大鷹くんの背で見えないけれど、進行方向を塞ぐように立っているのだろう。
「お前、かっこつけた割に女王様とか……俺のシリアスを返せ。」
前にいた大鷹くんを避け、顔を出して光莉の姿を確認する。
仁王立ちの光莉の足元に、すがる様な視線の茅草くん。
「……紋葉、配下に弱い下っ端では済まさんじょ。」
確かに、シリアスなセリフなんだけど足元の彼が不憫でならない。
「はぁ~~。もう勘弁してくれよ。現状じゃなくても逃げるけどな……。光莉が俺を探していたのは見えていた。分かってんだろ?……告美に何があったのかも見たけど、助けには行けなかった。ごめんな。」
大きなため息で、髪をかき上げるように天井を見つめ……吐き出された言葉は弱くなっていった。
その声は後悔と悲しみを伝える。訳があっての事。
「光莉、大鷹くんも理由があって来れなかっただけで……」
「違うんだ!」
私の言葉を遮ったのは大鷹くんだった。私を見つめ、苦しそうな無理した笑顔。
「裏切ったんだよ、俺は。」
……裏切った?
彼の視線を逸らすことも出来ず、聴いた言葉が理解不能のまま頭をグルグル回る。
大鷹くんの手は離れ、私は徐々に視線を逸らす。足取りも不安定で、音を遮断したみたいに静かな時間。
周りの景色も真っ白。あてもなく、さ迷う様に歩は進む。
小さな痛みと、行き止まりの壁。頬を伝う涙に気付き、座り込んだ。
時間の感覚も狂う。漆黒の闇を味わう。
目を閉じたまま両肩を抱き寄せて、背を丸め、ある考えが頭を過った。
目を開き、影の薄暗さの中、背に意識を集中させる。
出来るかもしれない。この現実で、今朝と同様に……無理やり引き出された自分の潜在能力を。
建物の影を覆うほどの暗闇と、照らすほどの異様な光が入り交じる。
背には大きく広がった黒煙の交じる炎の翼。
後ろで纏めていたはずの黒髪が解け、胸元に滑り落ちる束は、藍色に染まっていた。
黒煙と藍色の髪が炎を際立たせるようで、震える手を見て更に驚く。
手から腕にかけては透き通るような白さで、羽毛のような模様が一面に広がっていた。
恐る恐る触れると、普段の腕と変わらない。だけど、腕が見えるってことは制服ではない。
視線を落とすと…………胸元は肌蹴たように谷間がモロ出し。
一気に熱が上昇して顔が赤くなったのが自分でも分かる。
両腕で胸を隠し、背にある翼より見られては困ると、周りを確認。
後ろに立っていた一翔と目が合った。
…………。
…………。
何で一翔がここに?
「……やべ。」
口元を押さえ、視線を泳がせて呟く。
「み、見た……の?」
てか、あの時と同じなら手遅れじゃない!あぁ……もう、この姿を見られたなんて。
服も全体が白い。胸元はガッツリ開いているけれど、翼には似つかない女神のイメージだろうか。
フワフワのロングスカートと、バレリーナが履くような靴に、紐が膝まで交差して。
一体、背中はどうなっているのだろうか。広げた大きな翼が委縮するように閉じていくのに、服には違和感がない。
全開とかだと恥辱で死ねる!
元の姿に戻るにも、どうしていいのか分からない。
気を失う勇気も……自分で変化(へんげ)のコントロールも儘ならない。
あぁ、この胸の谷間を見られたもの悪夢だろうか……
学校の門を通り、登校して来る生徒に交ざって歩き続ける。
「告美、おはよう。それは誰なの?」
後ろから聞こえたのは光莉の声だけど、いつもの様な無表情で淡々としたのとは違い、明らかに不機嫌を伝えるような早口。
振り返り、説明しようとした瞬間。
光莉は、私と同時で振り返った茅草くんに詰め寄り……噛んだ……!?
…………。
…………。
…………。
え?
光莉。幾らなんでも皆の視線のある場所で、それは無いよ!
沈黙に耐えられず、視線を泳がすように周りを見て驚いた。
誰も私たちに気を留めず、見えていないように何事も無く通り過ぎていく。
あ、これは光莉の能力なのかな。
光莉は茅草くんの首元に噛みついたまま、微動だにしない。
「……光莉?」
遠慮気味な小さな声をかけると、少しの反応。
光莉の唇が茅草くんの首から離れたけれど、牙が刺さっているのが見えて血の気が引く。
あれ、噛むって……そう言う事、なの?
「……あの、その……僕、こんな気持ち初めてで、どうしたらいいのか分からないです。恥ずかしくて、我慢が……ごめんなさいぃ~~!」
いよいよ一日の隷属状態が開始されたようだけど。
茅草くんは、顔を真っ赤にして人見知りの女の子のような反応で逃げてしまった。
「あぁ~~。可愛い獲物を見つけて興奮してしもたわ。てへ?」
無表情で、綺麗な顔の女子が言うセリフじゃないと思うのは私だけだろうか。
確かに彼の外見はそうだけど、男の子を獲物って。
「光莉、茅草くんが好みって事?」
冗談で噛むと言う事はあっても、本当に噛むのを見るとは思わなかった。
だって、この光莉が従属を願うとは考えられない事だから。まして恋愛に使うなど。
「むっちゃ、そそられるわ。これが私の初恋やろか。ふふ。いじめがいがあって……逃がさへんけんな……くく。」
茅草くん、逃げて!
予鈴が鳴り響き、私たちは急いで校舎に走った。
何とかHRに間に合い、息を切らしながら自分の席に座る。
出席の返事を終えて、視線は窓の外に。所々に雲があるけれど、広がるのは青空。
目まぐるしい変化に思考は追い付かず、どこか他人事。
この空に似つかわしくない変化(へんげ)の記憶。恐怖に包まれ、寒気がする。
「告美、HR終わったんよ。なぁ。朝、何があったか訊いてもえぇ?」
声に反応し、目を上げて現実を取り戻す。
無表情だけど、光莉の眼は心配しているのが分かる。
……ん?強烈な視線。
その気配を辿って目を移動させると、教室の出入り口に立っていたのは茅草くん。
頬を染め、こちらの様子を窺い、私の視線に姿を隠す。
視線を光莉に戻すと、少し黒い笑顔で首を傾げた。
……私の額に汗が滲むのは、どうしてだろうか。これが放置プレイってやつなのかな。
どう対応していいのか分からない私を無視して、光莉は話を進める。
「“彼”に会(お)うたんやろ。私が今、言えるんは……“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ。」
配下じゃないのに、あの圧力。言葉に誘発されて、現実で変化(へんげ)をした程……
抗うのは未来。生じる恐れも先が見えない故。
光莉、ありがとう……覚えておくわ。きっと、その言葉が役に立つ日が必ず来るだろうから。
……それにしても、茅草くんは大丈夫なのかな。立ち去った光莉の方向は紛れもなく彼の居た方向。
応援すべきなのに、隷属状態にしたからか戸惑いを覚える。
その日限りの関係……それは、一度限りではないかもしれない。
光莉の眼は笑えない程に真剣で、狙った獲物を『逃がさない』と言っていた。
付き合うって、どういうことなのだろうか。
私が抱いた淡い恋心。“彼”を好きになって当然……私の理想を重ねた……から。
確か鏡のアヤカシだと言っていたけれど。
それは、私の見ていたのが理想を映した姿だったと言うことなのかな。
淡い想いには確かに、その記憶が残っている。
この数日で巻き起こる現実に、付いて行けない。いっその事、夢だったのだと思ってしまった方が楽だ。
吉凶を萌し、不吉を告げる役目……彼には今回、必要なかった。
それは私の悪夢。それも一時のこと。
苦しみと恐怖に包まれたのは確かだけど、今も思い出すだけで震えるけれど……未来は変わってしまった。
……何故…………?
「告美、ちょっといいか?二人で話したいんだ。邪魔する奴が居ないうちに、別の場所に移動しよう。」
走り寄って口早に告げる大鷹くん。息が切れ、慌てた様子。
急かすように私の手を引いて、座っている椅子から立ち上がらせた。
連れられるまま、私は大鷹くんの後を付いて行く。
何の疑問も無かった。大鷹くんを疑うことなど、まして私に害を与えるなど考えもしない。
「朝から見んかった紋葉がこんな所におったわ。そんなに急いでどこに行くん?なぁ、私も連れて行ってくれんかな。」
光莉の声と同時で、大鷹くんの足は急に止まって舌打ちが聞こえた。
大鷹くんの背で見えないけれど、進行方向を塞ぐように立っているのだろう。
「お前、かっこつけた割に女王様とか……俺のシリアスを返せ。」
前にいた大鷹くんを避け、顔を出して光莉の姿を確認する。
仁王立ちの光莉の足元に、すがる様な視線の茅草くん。
「……紋葉、配下に弱い下っ端では済まさんじょ。」
確かに、シリアスなセリフなんだけど足元の彼が不憫でならない。
「はぁ~~。もう勘弁してくれよ。現状じゃなくても逃げるけどな……。光莉が俺を探していたのは見えていた。分かってんだろ?……告美に何があったのかも見たけど、助けには行けなかった。ごめんな。」
大きなため息で、髪をかき上げるように天井を見つめ……吐き出された言葉は弱くなっていった。
その声は後悔と悲しみを伝える。訳があっての事。
「光莉、大鷹くんも理由があって来れなかっただけで……」
「違うんだ!」
私の言葉を遮ったのは大鷹くんだった。私を見つめ、苦しそうな無理した笑顔。
「裏切ったんだよ、俺は。」
……裏切った?
彼の視線を逸らすことも出来ず、聴いた言葉が理解不能のまま頭をグルグル回る。
大鷹くんの手は離れ、私は徐々に視線を逸らす。足取りも不安定で、音を遮断したみたいに静かな時間。
周りの景色も真っ白。あてもなく、さ迷う様に歩は進む。
小さな痛みと、行き止まりの壁。頬を伝う涙に気付き、座り込んだ。
時間の感覚も狂う。漆黒の闇を味わう。
目を閉じたまま両肩を抱き寄せて、背を丸め、ある考えが頭を過った。
目を開き、影の薄暗さの中、背に意識を集中させる。
出来るかもしれない。この現実で、今朝と同様に……無理やり引き出された自分の潜在能力を。
建物の影を覆うほどの暗闇と、照らすほどの異様な光が入り交じる。
背には大きく広がった黒煙の交じる炎の翼。
後ろで纏めていたはずの黒髪が解け、胸元に滑り落ちる束は、藍色に染まっていた。
黒煙と藍色の髪が炎を際立たせるようで、震える手を見て更に驚く。
手から腕にかけては透き通るような白さで、羽毛のような模様が一面に広がっていた。
恐る恐る触れると、普段の腕と変わらない。だけど、腕が見えるってことは制服ではない。
視線を落とすと…………胸元は肌蹴たように谷間がモロ出し。
一気に熱が上昇して顔が赤くなったのが自分でも分かる。
両腕で胸を隠し、背にある翼より見られては困ると、周りを確認。
後ろに立っていた一翔と目が合った。
…………。
…………。
何で一翔がここに?
「……やべ。」
口元を押さえ、視線を泳がせて呟く。
「み、見た……の?」
てか、あの時と同じなら手遅れじゃない!あぁ……もう、この姿を見られたなんて。
服も全体が白い。胸元はガッツリ開いているけれど、翼には似つかない女神のイメージだろうか。
フワフワのロングスカートと、バレリーナが履くような靴に、紐が膝まで交差して。
一体、背中はどうなっているのだろうか。広げた大きな翼が委縮するように閉じていくのに、服には違和感がない。
全開とかだと恥辱で死ねる!
元の姿に戻るにも、どうしていいのか分からない。
気を失う勇気も……自分で変化(へんげ)のコントロールも儘ならない。
あぁ、この胸の谷間を見られたもの悪夢だろうか……