諸々ファンタジー5作品
悪夢は思わぬ展開を見せる・・





自分の視た吉凶の萌し。私の悪夢。
その恐怖に直面しているというのに、自分の名を叫んだ声で時が止まったような感覚を味わう。

一翔……結局、あなたは私の視た萌しに係わることを選んだのね。
不吉に巻き込んでおきながら、嬉しいと思う自分に苦笑が漏れる。

身動きの取れない圧迫を受けながら、彼の気配だけを感じて。


「告美から離れろ。」


途切れる息を整え、低い声が吐き出された。

一翔の擦れた声に息が詰まりそうになる。少なからず走って来たのだろう。
私を心配してくれたのだろうか。それとも、馬鹿な私に呆れているのかな。


「……この姿の告美を、君が先に知っていたのか。妬けるね。少しだけ時間をあげよう。奪うのも一興。」


この姿って、変化した鵺の私だよね。悪夢として奪った一翔は、この現状を知っている。
私がどこまで視たのか分からないけれど、今後の係わりは確実に萌しの通り……良かったのか悪かったのか……与えられた『時間』。

奪われるのはもう嫌だ…………



意識は途切れてしまった。

萌しも奪われ、この現実でも結末を知ることなく。
目まぐるしい変化。自分本来の姿も分からず、生じる状況に対応できさえしない。



微かな視界。
自分を見下ろしている視線に、まだ意識が混濁しているのではないかと。


「告美、俺はあいつに近づくなって言ったよな。」


あぁ、やはり呆れているんだ。


「ごめんなさい。断片的とはいえ、奪還できた萌しを告げるのが私の役目だから。」


一翔に寄り掛かる自分の位置と、近くにある顔が穏やかな表情なので、夢と現実の区別がつかない。


「……変化は解けてしまったよ。告美、未来は少しばかり変わったのかもしれない。俺が喰った悪夢とは違っていたから。」


一翔は言葉の途中で視線を上げて、遠くを見つめながら話を続ける。
手を伸ばし、私は彼の頬に触れた。

私の行動に過剰な反応をし、あまりに意外だったのか戸惑ったような表情。
目線を下に移動した一翔と視線が合っているようで微妙に、ずれている。気まずい。

そんな雰囲気を壊す絶妙なタイミングだった。
茂みを揺らす大きな音が聞こえて、二人の視線は同じ位置に向かう。


「……あ、ごめんなさい。僕、そんなつもりじゃ。」


明らかに、見てはいけない物を見たというような慌てぶり。

…………。
…………。

「違うから!」


思わず叫んだのは一翔。
私は彼に触れていた手をそっと離して、寄り掛かっていた状態を誤魔化そうと体勢を変える。


「……っ。」


吐き気を感じるような眩暈。
口を押えて目を閉じ、同じ位置にもたれかかる。


「告美、大丈夫か。」


耳鳴りがして、音が遮断されたかのような静けさ。視界を閉ざした暗闇で、目が回っているような感覚。
伝わるのは一翔の抱き寄せる腕の強さと、熱を感じるほどの体温。グルグル回るのは思考も同じ。

この状況を目撃したのは、同じ学校の男子生徒……だよね?男の制服を着ていたけれど、女の子かと見間違うほどの可愛い系。
見られたのが女の子じゃなくて安心したけれど……

“彼” 姫鏡 暎磨(ひめあき はゆま)とは、無関係なのだろうか。
鏡のアヤカシ。

一翔の言うように未来は変わってしまった?
分からない。訊けば、一翔は答えてくれるだろうか。


「……ぃ……み、告美。」


遠くから聴こえる声に呼び起こされて目を開けた。吐き気は無い。
最近、気を失ってばかりな気がする。

思わず苦笑がもれ、心配そうな表情の一翔に申し訳ない気持ちで一杯。


「ごめんね、大丈夫……だよ?」


視界の端に入って来たのは、さっきの可愛い男の子が涙をボロボロ流して、鼻をすする姿。
何故、そこに居るのかな。心配してくれたのだろうけど、男の子の涙に戸惑いと言い得ぬ感情。


「あ、僕は屈狸 茅草(くずり ちがや)と言います。」


良く見れば、瞳の色が少し赤い。明らかに泣いたのとは違う虹彩。茶色にも近いけれど……
彼もアヤカシなのだろうかと、思わず身構えてしまう。


「告美、安心しろ。アイツとは無関係だよ。コイツ、狸のアヤカシで……草食らしくてさ。」


それって、餌を探していたの?こんな所で、どんな草を集めていたのか気になるけれど。
野菜を買うとか、もっとこう……アヤカシの習性なのかな。それならしょうがないのかな。


「あの、何か失礼な誤解をしていませんか。僕が山菜を食べるのは人間の作る野菜に栄養が足りないからで……うぅ。僕、そんな野性じゃないです。」


涙もろい男(こ)だな。野生って言葉が似合わないのに、することが抜けていると言う意味では天然だよね。
可愛い外見の所為もあって、男の子なのに泣いていても許せてしまう。


「告美、そろそろ俺は生徒会に行かないと……」


時間を気にする素振りも遠慮気味で、今の自分がお荷物なのに嫌気がする。
腕に力を入れ、彼から離れるけれど眩暈は無い。


「大丈夫だから行って。“彼”のことは、別の時に話しましょう。」


上手く笑えた自信はないけれど、彼は安堵して立ち上がる。


「あぁ。……茅草、偶然とはいえ居合わせた縁で後を頼みたい。いいか。」


有無を言わせないような一翔の威圧感に、彼は青ざめて頷くだけ。
当然だよね、年上の生徒会員に草食男子が勝てるはずもない。

颯爽と走り去る彼の後姿を見つめ、ため息が漏れる。


「カッコイイ彼氏さんですよね。」


ん?彼氏って言ったよね、今。やはり、さっきの状況を見て誤解したんだ。
視界に入った屈狸くんに、目を輝かせて女子トークする時のような錯覚。

何だろう。ちょっとした苛立ち。


「彼氏じゃないわ。」


やっと口から出たのは否定の一言だけ。


「そうですか。僕に気付くまでの二人は、とても良い雰囲気だったし……あなたが少し気を失った間、あの人はとても心配していたので。」


胸にあった苛立ちは薄れ、彼の弱々しい態度も変わらないのに平穏に包まれる。
そして萌しで視た一翔の表情が頭を過った。これからの未来に不安を抱き、弱さに押し潰されそうになる。


「私たちも学校に向かいましょう。近いとはいえ、遅刻してはいけないから。」


立ち上がり、すこし足取りも不安定な気がするけれど歩を進めた。


「僕、同性に茅草って呼ばれたのは初めてですよ。あんな男性になりたくて憧れるんですけど、どうすればなれるでしょう?」


私に問われても困るけどね。本当に異性とは思えない。
狸のアヤカシだよね。それこそ化ければいいんじゃないかな。まずは外見から真似るとか。


「あの、名前を訊いても良いですか?」


返事の遅い私の間が不安を煽ったのか、遠慮気味に会話を変える。

それは私の?それとも一翔のかしら。
名乗って、アヤカシの事まで言ってくれた彼に自己紹介ぐらいはしないと失礼な気もする。


「私は鳥生 告美(とりゅう つぐみ)。鵺(ぬえ)。さっきの先輩は空馬 一翔(からうま かずと)さん……」


私の正体を告げるのは簡単だけど、一翔が何のアヤカシなのかを告げていいのかは惑う。

あれ?記憶を遡り、私は混乱してしまう。
彼は私に悪夢を喰らう獏だと言った。だけど、その前に一翔はジンマと名乗った。

私を信用していなかった?それとも……


「鳥生さん?まだ体調が良くないんですか。保健室に行きましょう。僕、空馬先輩に怒られちゃいます。」


私は曖昧な返事をしたと思う。
予測していなかった現実での変化(へんげ)に体力を奪われ、思考も働かず。

変わった未来は視た萌しに影響を及ぼし、新たなアヤカシと出逢い……
悪夢は思わぬ展開を見せる…………





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