諸々ファンタジー5作品
見ているのは現実・・
身支度を済ませて玄関を出ると、門には光莉が立っていた。
「おはよう、どうしたの?」
私は挨拶をしながら早足で近づく。それなのに光莉は無表情。
彼女の首の黒い輪が色濃くなっていくのが見えた。
『学校はあるアヤカシの配下となった。結界が張り巡っている。』
いつもと異なる声色。学校がアヤカシの配下になっている?
学校がどうなっているのか見た訳ではないし、力のある光莉がここに来た理由も分からない。一体どういうことなのだろうか。
『一緒に来て欲しい。』
「私は何が出来るのかな?」
光莉は質問には答えず、私の手を引いて歩き始めた。少し早い歩調。
黙って付いて行くと学校が近づき、敷地の周辺を覆う暗雲と冷たい風に戸惑う。
しかし周りの人達は、この異様さを気に留めることなく、いつもと変わらない日常のように通り過ぎていく。
「光莉、私は怖い。何が起きているのか教えて欲しい。」
足を止めて、光莉の手を引き戻した。彼女は、ゆっくりと私の方に振り返る。
「私にもわからん。何があったんか、これから何があるんか。」
あ、いつもの光莉だ。首元の輪はくっきりと浮き出て、漂うアヤカシの力は変わらないけれど、声は普通に戻っている。
でも、彼女でさえ何が起きているか把握できていないなら、危険なんじゃないのかな。
「行こか、力の発信源は分かるけんな。」
光莉は不安そうな私に首を傾げて、不機嫌に続ける。
「多分、紋葉もそこにおるわ。」
「大鷹くんが?」
光莉は、ずっと私の表情を観察して反応を待っている。
確か大鷹くんが私を、どこかに連れて行こうとしたことがあった。そして、それを止めたのが光莉。
私を裏切ったのだと大鷹くんが言った。
「思い出した。数日で、色んな事があり過ぎて。ごめんなさい。」
私にとっては夢も、現実と同じ。他のアヤカシに誘発された自分の力。
光莉は無言で方向を変え、また私の手を引いた。今度も踏み止まることなく付いて行く。
辿り着いた先は、校内。一度も利用したことのない保健室。
立ち止まって背を見せていた光莉は、すっと身を引いて、私に入るようにと促した。
「ごめんな。異なる神域に入れんことないんやけど。今は、ここで告美を待つことしか出来んのんよ。」
光莉の表情は読めないけれど、空気が張り詰めるほどの緊張が伝わる。
私を家まで迎えに来て、ここまで導いてくれた光莉。
『入れんことない』と、ここで待っていてくれるのなら、信頼して行くべきだ。
気になるのは『神域』と言う事。
中にいるのは、光莉と同じ“神と言われる”アヤカシ。大鷹くんを配下におけるほどの力。
「私は行くよ。光莉、待っていてくれるかな。」
「待っとる。危険を察知したら、必ず助けに行くけんな。」
光莉の首の輪は色濃くなって、部屋の中にいるアヤカシの気配を相殺するような空気が漂う。
いつだったか、光莉が言った。
『“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ』
では、私を配下に置けるのは一体?
目の前のドアは簡単に開いた。中は普通の保健室と変わりはない。
もっと違う世界とか、不思議な空間になっているのかと思っていたのに。
歩を進め、自分の後ろでドアを閉めた。
「いらっしゃい。あなたが、『彼』の心を射止めた鵺なのね。」
彼って一体、誰の事を言っているんだろうか。
白衣を着ているけれど、中は肌蹴た露出の多い服。この人、本当に養護教諭なのかな。
思わず息を呑んだ。視線を逸らし、体が硬直する。
目に入ったのは、ベッドの上にいる上半身裸の大鷹くん。下半身は布団で隠れているから分からないけれど、見てはいけない気がした。
「くすくすくす。まだ、私の自己紹介もしていないのに。見つけちゃったんだ~。反応が初々しい。私にはない可愛いさに、妬けちゃうわね。」
怖い。考えたくないことが頭に浮かんで、必死で塗り消そうとするけど上手くいかない。
目を閉じて、息詰まるような苦しみに、両手が胸元に移動して身を縮める。
「目を開けて、ちゃんと見なさい。これが配下。あなたのお友達も、私と変わらない事をしてるじゃない。」
光莉も同じ?確かに力を使った。だけど、それは。
目を開け、身を起こして彼女を睨みつける。
「誰も否定しないわ。私たちはアヤカシ。自分の役目にしたがって、生きるのみ。」
私の言葉に、和らいだような苦笑。
そして、今までとは異なるほどの大きな力。
まるで自分の中に潜む力が、引きずられるような感覚。
徐々に変化していく姿に、寒気が生じた。
ネコ耳と尻尾が二本。手には柄の長い鎌。
「私の名は猫塚 現人(ねこづか あきと)。ご覧の通り、猫又よ。最近、学校の中が騒がしいから、久々に興味が湧いちゃった。」
猫又だと名乗れば、どんなアヤカシなのか分かるものなのだろうか。
猫って、確か長生きすると力を持つとか聞いたことがあるような。でも、手にしている鎌はまるで。
「役目上、私の事を死神と呼ぶ人もいるわ。」
私の入り込んだ神域が、死の力に起因するのだとすれば。
光莉が侵入するのも可能。ヒカギリ。噛んだ相手の命を、その日限りにしてきたアヤカシ。
そして、目の前に居るのは。
「ふふ。私を殺すと七代まで祟るから、気を付けてね。」
猫又。死神。そんなアヤカシが。
「私に、何の用事ですか?」
何の情報もなく、孤独に取り残されたようだ。
「あなたが言ったのよ?『私たちはアヤカシ。自分の役目にしたがって生きるのみ』と。あなたは鵺。神仕えでしょ?」
神仕え?
そんな立場になるのだろうか。吉凶を萌し、不吉を告げる鵺。
「やっぱり、何も知らないのね。」
大鷹くんからは、何も聞いていないのかな。
私は知らないことが多すぎる。そうだよね、問題の無い方がおかしい。
だけど今、このアヤカシから教えてもらうつもりはない。
彼女は何らかの役目を担って、私を呼び寄せたのだとすれば。
あれ、私の役目は……吉凶を夢に萌すことなく、幾日が過ぎた?
まさか、まだ力のコントロールが出来ていないの?
「気を付けなさい。あなたから死臭が微かにする。」
大きな鎌が暗黒の渦を生じさせ、私の周りを微かに漂う。寒気と死への恐怖。
私が見ているのは現実・・
身支度を済ませて玄関を出ると、門には光莉が立っていた。
「おはよう、どうしたの?」
私は挨拶をしながら早足で近づく。それなのに光莉は無表情。
彼女の首の黒い輪が色濃くなっていくのが見えた。
『学校はあるアヤカシの配下となった。結界が張り巡っている。』
いつもと異なる声色。学校がアヤカシの配下になっている?
学校がどうなっているのか見た訳ではないし、力のある光莉がここに来た理由も分からない。一体どういうことなのだろうか。
『一緒に来て欲しい。』
「私は何が出来るのかな?」
光莉は質問には答えず、私の手を引いて歩き始めた。少し早い歩調。
黙って付いて行くと学校が近づき、敷地の周辺を覆う暗雲と冷たい風に戸惑う。
しかし周りの人達は、この異様さを気に留めることなく、いつもと変わらない日常のように通り過ぎていく。
「光莉、私は怖い。何が起きているのか教えて欲しい。」
足を止めて、光莉の手を引き戻した。彼女は、ゆっくりと私の方に振り返る。
「私にもわからん。何があったんか、これから何があるんか。」
あ、いつもの光莉だ。首元の輪はくっきりと浮き出て、漂うアヤカシの力は変わらないけれど、声は普通に戻っている。
でも、彼女でさえ何が起きているか把握できていないなら、危険なんじゃないのかな。
「行こか、力の発信源は分かるけんな。」
光莉は不安そうな私に首を傾げて、不機嫌に続ける。
「多分、紋葉もそこにおるわ。」
「大鷹くんが?」
光莉は、ずっと私の表情を観察して反応を待っている。
確か大鷹くんが私を、どこかに連れて行こうとしたことがあった。そして、それを止めたのが光莉。
私を裏切ったのだと大鷹くんが言った。
「思い出した。数日で、色んな事があり過ぎて。ごめんなさい。」
私にとっては夢も、現実と同じ。他のアヤカシに誘発された自分の力。
光莉は無言で方向を変え、また私の手を引いた。今度も踏み止まることなく付いて行く。
辿り着いた先は、校内。一度も利用したことのない保健室。
立ち止まって背を見せていた光莉は、すっと身を引いて、私に入るようにと促した。
「ごめんな。異なる神域に入れんことないんやけど。今は、ここで告美を待つことしか出来んのんよ。」
光莉の表情は読めないけれど、空気が張り詰めるほどの緊張が伝わる。
私を家まで迎えに来て、ここまで導いてくれた光莉。
『入れんことない』と、ここで待っていてくれるのなら、信頼して行くべきだ。
気になるのは『神域』と言う事。
中にいるのは、光莉と同じ“神と言われる”アヤカシ。大鷹くんを配下におけるほどの力。
「私は行くよ。光莉、待っていてくれるかな。」
「待っとる。危険を察知したら、必ず助けに行くけんな。」
光莉の首の輪は色濃くなって、部屋の中にいるアヤカシの気配を相殺するような空気が漂う。
いつだったか、光莉が言った。
『“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ』
では、私を配下に置けるのは一体?
目の前のドアは簡単に開いた。中は普通の保健室と変わりはない。
もっと違う世界とか、不思議な空間になっているのかと思っていたのに。
歩を進め、自分の後ろでドアを閉めた。
「いらっしゃい。あなたが、『彼』の心を射止めた鵺なのね。」
彼って一体、誰の事を言っているんだろうか。
白衣を着ているけれど、中は肌蹴た露出の多い服。この人、本当に養護教諭なのかな。
思わず息を呑んだ。視線を逸らし、体が硬直する。
目に入ったのは、ベッドの上にいる上半身裸の大鷹くん。下半身は布団で隠れているから分からないけれど、見てはいけない気がした。
「くすくすくす。まだ、私の自己紹介もしていないのに。見つけちゃったんだ~。反応が初々しい。私にはない可愛いさに、妬けちゃうわね。」
怖い。考えたくないことが頭に浮かんで、必死で塗り消そうとするけど上手くいかない。
目を閉じて、息詰まるような苦しみに、両手が胸元に移動して身を縮める。
「目を開けて、ちゃんと見なさい。これが配下。あなたのお友達も、私と変わらない事をしてるじゃない。」
光莉も同じ?確かに力を使った。だけど、それは。
目を開け、身を起こして彼女を睨みつける。
「誰も否定しないわ。私たちはアヤカシ。自分の役目にしたがって、生きるのみ。」
私の言葉に、和らいだような苦笑。
そして、今までとは異なるほどの大きな力。
まるで自分の中に潜む力が、引きずられるような感覚。
徐々に変化していく姿に、寒気が生じた。
ネコ耳と尻尾が二本。手には柄の長い鎌。
「私の名は猫塚 現人(ねこづか あきと)。ご覧の通り、猫又よ。最近、学校の中が騒がしいから、久々に興味が湧いちゃった。」
猫又だと名乗れば、どんなアヤカシなのか分かるものなのだろうか。
猫って、確か長生きすると力を持つとか聞いたことがあるような。でも、手にしている鎌はまるで。
「役目上、私の事を死神と呼ぶ人もいるわ。」
私の入り込んだ神域が、死の力に起因するのだとすれば。
光莉が侵入するのも可能。ヒカギリ。噛んだ相手の命を、その日限りにしてきたアヤカシ。
そして、目の前に居るのは。
「ふふ。私を殺すと七代まで祟るから、気を付けてね。」
猫又。死神。そんなアヤカシが。
「私に、何の用事ですか?」
何の情報もなく、孤独に取り残されたようだ。
「あなたが言ったのよ?『私たちはアヤカシ。自分の役目にしたがって生きるのみ』と。あなたは鵺。神仕えでしょ?」
神仕え?
そんな立場になるのだろうか。吉凶を萌し、不吉を告げる鵺。
「やっぱり、何も知らないのね。」
大鷹くんからは、何も聞いていないのかな。
私は知らないことが多すぎる。そうだよね、問題の無い方がおかしい。
だけど今、このアヤカシから教えてもらうつもりはない。
彼女は何らかの役目を担って、私を呼び寄せたのだとすれば。
あれ、私の役目は……吉凶を夢に萌すことなく、幾日が過ぎた?
まさか、まだ力のコントロールが出来ていないの?
「気を付けなさい。あなたから死臭が微かにする。」
大きな鎌が暗黒の渦を生じさせ、私の周りを微かに漂う。寒気と死への恐怖。
私が見ているのは現実・・