諸々ファンタジー5作品
現実を受け入れないと駄目ですか!
信頼と恋心は揺れて・・
自分を取り巻いていた気配が消え、足が後退する。
「さ、行きなさい。私の今回の役目はここまで。」
彼女の表情を覚えていない。記憶に残らなかった。
告げた言葉が悪意なのか、私の告げてきた不吉と同様の物なのか。
私は保健室から出て、ドアの前にいた光莉に抱き着く。
「おかえり。」
優しい声に、思わず涙ぐんでしまう。
「ただいま。」
光莉は私の手を引いて、教室の方へと向かう。
「告美、私らを軽蔑せんといて欲しい。」
前を歩く光莉の表情は見えない。
軽蔑。
それは猫又の彼女が大鷹くんにした事と、光莉が屈狸くんを噛んだ事に関して。
「しないわ。」
彼女にも同じことを言ったけれど、嘘じゃない。
「ありがとうな。告美、あんたは知るべきことが多すぎる。時間が欲しい。」
足を止め、振り返って私を見上げる光莉の眼は真剣。
色濃くなっていた首の黒い輪が、通常に戻って行く。危機感が薄れるように。
「光莉、彼女は役目で私を呼んだ。そして『死臭がする』と。」
「腐臭を嗅ぎわける能力に長け、葬儀の場で死者を甦らせ、死者の亡骸を奪うと言われた妖怪。俗信やけどな。」
死“神”と言われる由縁。
私の周りに現れたアヤカシ達。出逢いは必然のように、私を真実へと近づける。
死臭か。
死に面するとしても、私の存在意義は役目を果たす事。
「あなたの敵だと思った者がそうではなく、味方だと思った者も……混沌とする未来は、私にも視えない。役目に囚われず、私があなたを救いたいと願う様に。あなたも生きることを願って欲しい。」
込み上げる感情が記憶にかかることなく、もどかしさと嬉しさに戸惑う。
思いと同調して涙が零れた。
「泣かんといて。どうしたらええんか、私にも分からんのんじょ。」
「うん、ごめん。ありがとう。」
涙を拭い、なんとか笑顔を向ける。
「告美!大丈夫だったか?」
後ろからの声に方向を変えようとした私を、光莉が引き留めて間に立ち塞がる。
近づく足を止め、苦笑する一翔。
「あんた、どっから来たん。そっちは保健室やろ?」
確かに、その方向には階段も他に繋がる廊下もなかった。
一体、どこから一翔は。まさか、あの保健室に居たの?そんな気配は。
猫又の気配に大鷹くんの存在も分からなかった程だ。
気づかなかったと言えば、そうなのかもしれない。けれど。
保健室の前に居た光莉が、どこから来たのかを尋ねたのだとすると。
「くくっ……バレちゃったか。それならしょうがない。計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな。」
何を言っているのか、理解が追い付かない。
息苦しさに、胸が痛む。
一翔の足元から小さな旋風が生じ、段々と威力を増していく。
彼の背には、真っ黒な翼。
私の黒煙の混じる翼とは違って、まるでそれは。
『味方だと思った者がそうではなく』
光莉の言っていたのは、一翔の事?そんな。
一翔の翼が大きく広がって羽ばたくと、更に大きな風が舞う。
強い風に目を閉じて、風圧に耐えながら。
「一翔、私はあなたを信頼している。何があっても、役目とは関係なく……」
叫んだ言葉は、どこまで伝わっただろうか。
風が静まり、目を開けると彼は居なかった。
目に入ったのは、両手を広げて私を護る光莉の後姿。
「光莉、彼は。」
「告美は、とんでもないもんに好かれたなぁ。」
不安な私に、光莉は振り返って笑顔を見せる。
そんな表情に、思わずほっとした。何故かは分からない。
もしかすると、死が彼に起因するなら……受け入れる覚悟が、あったのかもしれない。
一翔は風と共に姿を消した。
風と翼。大鷹くんが前に言っていたけど、一翔は『地上タイプ』ではないの?なら、あの翼は。
『ジンマ』
人の夢を奪う“魔(ま)”だと思っていたけれど。悪“魔(ま)”のような漆黒の翼。
彼は私に悪夢を喰らう獏だと言った。だけど、その前に一翔はジンマと名乗っている。
嘘は吐いていない。私は記憶を遡る。
「ごめん、光莉。授業は……」
「私も一緒に行くわ。気にせんでもええ。単位は先生を噛めば思い通りやけん。」
そうか、その手が。
いやいや、それもどうなのかな。だけど。このままで良い訳がない。
「光莉、私は一翔を信じたい。」
「うん。」
「彼から、アヤカシについて聞くつもりだった。だけど、そんな余裕もない気がする。教えて、アヤカシの全て。」
光莉は笑顔でうなずいた。
「ええよ。ほな、話せる所に行こか。」
光莉は私に手を差し伸べる。
その手を取って、彼女の導く方へと付いて行く。
心は穏やかじゃないけれど。
いつもと違う一翔に既視感があった。何度か接したことがある。
まだ見ぬ未来、それも自分の生死を左右するようで怖い。
抱いた想いは消えず。信頼と恋心は揺れて・・
自分を取り巻いていた気配が消え、足が後退する。
「さ、行きなさい。私の今回の役目はここまで。」
彼女の表情を覚えていない。記憶に残らなかった。
告げた言葉が悪意なのか、私の告げてきた不吉と同様の物なのか。
私は保健室から出て、ドアの前にいた光莉に抱き着く。
「おかえり。」
優しい声に、思わず涙ぐんでしまう。
「ただいま。」
光莉は私の手を引いて、教室の方へと向かう。
「告美、私らを軽蔑せんといて欲しい。」
前を歩く光莉の表情は見えない。
軽蔑。
それは猫又の彼女が大鷹くんにした事と、光莉が屈狸くんを噛んだ事に関して。
「しないわ。」
彼女にも同じことを言ったけれど、嘘じゃない。
「ありがとうな。告美、あんたは知るべきことが多すぎる。時間が欲しい。」
足を止め、振り返って私を見上げる光莉の眼は真剣。
色濃くなっていた首の黒い輪が、通常に戻って行く。危機感が薄れるように。
「光莉、彼女は役目で私を呼んだ。そして『死臭がする』と。」
「腐臭を嗅ぎわける能力に長け、葬儀の場で死者を甦らせ、死者の亡骸を奪うと言われた妖怪。俗信やけどな。」
死“神”と言われる由縁。
私の周りに現れたアヤカシ達。出逢いは必然のように、私を真実へと近づける。
死臭か。
死に面するとしても、私の存在意義は役目を果たす事。
「あなたの敵だと思った者がそうではなく、味方だと思った者も……混沌とする未来は、私にも視えない。役目に囚われず、私があなたを救いたいと願う様に。あなたも生きることを願って欲しい。」
込み上げる感情が記憶にかかることなく、もどかしさと嬉しさに戸惑う。
思いと同調して涙が零れた。
「泣かんといて。どうしたらええんか、私にも分からんのんじょ。」
「うん、ごめん。ありがとう。」
涙を拭い、なんとか笑顔を向ける。
「告美!大丈夫だったか?」
後ろからの声に方向を変えようとした私を、光莉が引き留めて間に立ち塞がる。
近づく足を止め、苦笑する一翔。
「あんた、どっから来たん。そっちは保健室やろ?」
確かに、その方向には階段も他に繋がる廊下もなかった。
一体、どこから一翔は。まさか、あの保健室に居たの?そんな気配は。
猫又の気配に大鷹くんの存在も分からなかった程だ。
気づかなかったと言えば、そうなのかもしれない。けれど。
保健室の前に居た光莉が、どこから来たのかを尋ねたのだとすると。
「くくっ……バレちゃったか。それならしょうがない。計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな。」
何を言っているのか、理解が追い付かない。
息苦しさに、胸が痛む。
一翔の足元から小さな旋風が生じ、段々と威力を増していく。
彼の背には、真っ黒な翼。
私の黒煙の混じる翼とは違って、まるでそれは。
『味方だと思った者がそうではなく』
光莉の言っていたのは、一翔の事?そんな。
一翔の翼が大きく広がって羽ばたくと、更に大きな風が舞う。
強い風に目を閉じて、風圧に耐えながら。
「一翔、私はあなたを信頼している。何があっても、役目とは関係なく……」
叫んだ言葉は、どこまで伝わっただろうか。
風が静まり、目を開けると彼は居なかった。
目に入ったのは、両手を広げて私を護る光莉の後姿。
「光莉、彼は。」
「告美は、とんでもないもんに好かれたなぁ。」
不安な私に、光莉は振り返って笑顔を見せる。
そんな表情に、思わずほっとした。何故かは分からない。
もしかすると、死が彼に起因するなら……受け入れる覚悟が、あったのかもしれない。
一翔は風と共に姿を消した。
風と翼。大鷹くんが前に言っていたけど、一翔は『地上タイプ』ではないの?なら、あの翼は。
『ジンマ』
人の夢を奪う“魔(ま)”だと思っていたけれど。悪“魔(ま)”のような漆黒の翼。
彼は私に悪夢を喰らう獏だと言った。だけど、その前に一翔はジンマと名乗っている。
嘘は吐いていない。私は記憶を遡る。
「ごめん、光莉。授業は……」
「私も一緒に行くわ。気にせんでもええ。単位は先生を噛めば思い通りやけん。」
そうか、その手が。
いやいや、それもどうなのかな。だけど。このままで良い訳がない。
「光莉、私は一翔を信じたい。」
「うん。」
「彼から、アヤカシについて聞くつもりだった。だけど、そんな余裕もない気がする。教えて、アヤカシの全て。」
光莉は笑顔でうなずいた。
「ええよ。ほな、話せる所に行こか。」
光莉は私に手を差し伸べる。
その手を取って、彼女の導く方へと付いて行く。
心は穏やかじゃないけれど。
いつもと違う一翔に既視感があった。何度か接したことがある。
まだ見ぬ未来、それも自分の生死を左右するようで怖い。
抱いた想いは消えず。信頼と恋心は揺れて・・