諸々ファンタジー5作品
それが理だから・・





朝、目覚めると天井のない自分の部屋にいた。
今度は自分で無意識に歩いて来たってことは無いと思うから、周りに迷惑を掛けてしまったな。

神域か。
父の力が強いなら、受け継ぐはずの能力は白狐だったはず。

一翔は母親の獏と、ジンマ……父親の能力、両方を持っていると言ったのは、どういう事なんだろうか。
そんな事が可能なのかな。

何らかの事情があるけど、私には言いたくないみたいだし。
一翔の雰囲気が変わるのと無関係じゃないよね。二重人格に近いのかな。

駄目だ。理から外れたことは、父の配下でなくても理解できない。
夢ではなく、現実で彼に会って話さないと。母から託された悪夢を知る事は出来ない。
きっと私達の母は今の状況を萌し、残してくれたのだろうから。



いつものように制服に着替え、台所へと向かう。
すると、そこには昨日のメンバーに加え、鏡のアヤカシも居た。姫鏡 暎磨(ひめあき はゆま)。
光莉と猫塚先生、屈狸くんと“彼”の視線を受け、少しの戸惑い。


「おはようございます。」


寝坊した感じがするけれど、朝の挨拶だし。


「おはよう。」


全員から返事。
何というか、威圧的だった姫鏡くんは印象が異なる。


「告美、ここに座んな。」


光莉に椅子を勧められ、集まる視線を受けながら座る。
少しの沈黙が重い。


「映磨(はゆま)が協力してくれるので、鳥生さんが変化した姿を二人で再現できます。」


囮作戦の決行ですか。それは父を誘き寄せる為。
だけど、肝心の悪夢は。


「光莉、猫塚先生。一翔が夢に現れ、これは彼の母が作ったものだと。」


二人は曖昧だけど、私とは違う方法で未来を見ている。


「その中身なら、俺でも知る事が出来るよ。」


彼は立ち上がり、私の前に置いた悪夢の詰まった球体に手を伸ばす。
咄嗟に、取られないよう両手で球体を覆った。


「あの、ごめんなさい。」


まだ信用していないのもある。
だって、彼は前に自分を“僕”と呼んでいた。それなのに。


「ふっ……。くすくすくす。俺は、ここに来たばかりだけど。誰からも詳しい説明を受けていない。」


説明を受けていないのに、アヤカシの集まるこの状況に馴染んでいる。
この手に在る中身を知る事も出来ると。


「君は、俺の力を見たよね。」


彼は鏡のアヤカシ。私が理想を重ねたのだと言っていた。
普通の鏡のように映すだけではない。神事に係わってきたなら。


「圧倒的な力を受けて、恐怖に震えたわ。」


鵺、本来の姿を引き出した能力。それはアヤカシとしての、彼の役目。
私は球体から手を離し、顔を上げる。


「教えて欲しい。この悪夢が、私たちに何を告げるのか。」


一翔は中身を知っているのかもしれない。
知らないとしても、予測できる何か。そうでなければ逃げているのかな。


「俺はね、この状況が来ることを知っていた。君を護ろうとした空馬先輩が、俺に君の見た不吉を告げたんだよ。だから未来は変わっただろ?」


『未来は少しばかり変わったのかもしれない。俺が喰った悪夢とは違っていた』
確かに一翔は、そう言っていた。

未来を変えることが出来るのは、先を知っている者だけ。


『先を視るお前が怖い』
その言葉が頭を過るのは。

目の前にいる姫鏡くんに対する恐れに、近い感情なのかもしれない。
姫鏡くんも一翔も、私の記憶から消えた悪夢を知っている。


『計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな。』
何らかの計算があって、一翔は身を引いた。

私と接触しておきながら、母達から託された悪夢を告げる事もせず。


「君は今の状況に集中すべきじゃないかな。俺に重ねた『理想』は、白狐だったんだよ。俺の力が暴走するくらい、“僕”は恐怖を味わった。神落ちを目の当たりにして、彼の考えに嫌悪で吐き気がする。」


私の理想が……父。
愛情は家族としてのものだと、思いたかった。父の思考は、神落ちの時点で狂っている。


「私が視た吉凶の萌し。それは私にとって悪夢。」

「俺にすれば不吉だよ。方法は異なるけれど、君は役目を果たした。だから未来は変わったんだよ。けれど。」


そうだ、この状況になることを姫鏡くんが知っていたのなら。まだ悪夢は続いている。


「告げるより、視た方が早いよね。天山 光莉(あまやま ひかり)さん、一面の水を用意して欲しい。そこに映すから。」


光莉は黙って頷いた。
机上の中央部から水が湧き、徐々に広がっていく。
それが球体に触れると、白と灰色のマーブリングが溶けて全面に浸透。じわじわと青白い炎が立ち上り、黒煙を含んでいく。

この悪夢には、アヤカシ達の力が集結した。そして映し出されるのは過去。
母が未来を萌したのは、父についての吉凶。私が視たのと同様、彼女にとっての悪夢。
それに引き寄せられた一翔の母、獏は一翔と同じように鵺から不吉の萌しを奪った。

母は役目を果たすために奪還を試み、未来を知った獏は中身を封じたまま残すように提案する。
獏は萌しを口で告げる約束で、自分の能力を継いだ息子の萌しを依頼した。

どこか親近感を抱いたのか、それに応じ……映像は途切れた。


「俺が見せられるのは、ここまでだよ。獏では悪夢の元凶、白狐の行動しか分からなかっただろうね。」


球体は母を通して、周りの感情を記憶していた。
それを映し出した水面。鏡のアヤカシ、姫鏡くんの能力との出逢いも偶然だったのかな。


「白狐が、神落ちしてまで手に入れたかった理由までは分からないけれどね。」


言葉にならない感情。複雑な思い。父を止めなければならない。
そして解決した暁には、一翔の抱える問題を……彼の吉凶を私が萌す。


「向こうに動きがあったみたいよ。紋葉(いさは)が、白狐を見つけたわ。」


猫塚先生は、私に苦笑を見せる。
彼女の役目ゆえ、“死神”として父を捕らえて裁く。


「私たちの存在意義を覆すわけにはいかない。」


それが理だから・・





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