諸々ファンタジー5作品
アヤカシでも鵺でもなく・・





人と変わらぬ外見で人間社会に混じり、尚も引き継がれる習性。
役目を背負って、其れは夜な夜な活動を粛然と繰り返す。
アヤカシは能力の減退を知りながら、人間の世界に何を望んだのか……。

黒煙の交じる炎の翼を背に、私が視るのは吉凶。 告げるのは不吉のみ。
道は一つではないかもしれない。だって周りに、アヤカシが役目を担って存在するから。

始まりの夢。視る事を望んだ“彼”の未来。それは呆気なく、記憶から奪い去られてしまった。
一翔との出逢い。同じ学校に彼を見つけ、増えるのは疑問だけ。

こんな身近で偏るかのように思えるほど、この世界には沢山のアヤカシが居るのだろうか。
何も答えが得られないまま、私は常に守られてきた。


「告美、あんたには神仕えを選んで欲しい。」


遠慮気味な言葉。感情を汲み取るかのような光莉の表情は、私を心配してくれているのが分かる。
つまり一翔は神仕えではない。獏は悪夢を喰うアヤカシ。でもジンマは?

言葉を選びながら、何と言って良いのか迷ってタイミングを失った。
光莉は視線を空にあげ、ため息を吐く。


「紋葉(いさは)はアホじゃ。綺麗なもんに惹かれて、何も見えてないんやけんな。」


大鷹くんは私に想いを抱いてくれていた。

『俺の目は常にお前を見ていると言うのに』
彼が見ていたのは、私のアヤカシの姿だろうか。

何にしても、好意を認識できずに冗談だと思っていた。


『告美はあかんよ。いくらあんたが好きじゃって言うても、あげんけんな』
光莉の冗談だと思っていたから。それに。

『私は空馬さんじゃない人に想いを寄せている』
当時の私は。

そんな私を見守り、光莉は先を視ていたのに。

『そっかぁ、 教えてくれてありがとうな。……ほなけど……うぅん、何でもない。私、応援しとるわ頑張りな』

理解してくれる友人に舞い上がり、私は何を告げただろうか。

『きっと、それが私の初恋だから。実らない恋に焦がれ、切なさと甘さを記憶に生きていきたい』

相手は違うけれど、その気持ちは変わらない。


「思う様にいかんな。多分、あの時の力の暴走は“神”であるが故……だったんかもしれん。紋葉にはホンマ悪い事したわ。」


視線を戻し、光莉は苦笑する。

あの時の言葉が本音だとすれば。
『引き継ぐ能力の減退は止めてくれんと困るけん、どないかならんやろか』

恐怖心の植え込まれてしまった大鷹くんを見ながら、私は二人のやり取りを微笑ましく思ってしまった。

『こんな時代まで、俺は御免だ!』
彼の本音。


「ホンマに、告美が私の配下やったらと思とったんやけんどな。ほうでもないわ。結局、手を出すことは出来んかったやろな。」


光莉は、何を思い出しているのだろうか。


「うぅん。光莉は助けに来てくれたよね。ありがとう。それに、いつも私の手を引いて導いてくれた。」


これからも……仲良くして欲しいなんて、言って良いのかな。


「それにしても化け猫、遅いなぁ。」


父の神域は解け、普通の屋上に戻ったのだけど。
変化を解いた猫塚先生は、鵺姿の母と小さな白狐の父を伴って、校舎の中に入って行った。
無言で移動したから、私は置いてきぼり感で、普通に会話する光莉に合せていたのだけど。


「光莉、この学校はアヤカシの管轄って言っていたよね?」


それが関係するのだと思って、尋ねた。


「知らんかったん?……ほうか、奴の配下やったけんなぁ。庇護欲は否定せんけど、これから面倒じゃ。」


大きなため息。


「なんか、ごめんね。」


私は知らずに、父の保護の下に居た。これから何が起こるのか。


「えぇんよ。『私には視えない混沌とする未来。役目に囚われず、 私があなたを救いたいと願う様に。あなたも生きることを願って欲しい』だから……。惹かれたのは当然なんよ、告美。」


『惹かれたのは当然』
それは。

問おうとした瞬間、ドアが開いて猫塚先生が登場。


「あの腐れ老害、頭薄いくせに固いわ。」


髪をかき上げ、苛立ち露わに毒を吐く。


「告美。この学校の建物の下、地下にはアヤカシの登録所みたいなモンがあるんよ。」


アヤカシの登録?母や父は、配下の登録になるのかな。
頭が固いって……死んだ母が存在する事自体、難しい問題だよね。


「ほうか、あかんかったんやな?……ほな、沈めよか。」


光莉の首の黒い輪が、色濃くなって足元に少しの水が生じた。


「落ち着きなさいよ。鵺と白狐の件は、私たちの配下って事で了承は得た。ただ。」


猫塚先生は、大きなため息。


「やっぱり、空馬先輩の件やな。」


声は低くて怒りが見えるけれど、光莉の首の輪は通常の色に戻って、水が消えていく。


「ヒカギリ、今後の相談もあるから鵺は連れて行く。あなたの配下だから白狐は置いて行くけれど、油断して噛みつかれないでよね。元、“神”で私たちより力もあるのだから。」

「化け猫が、いらん心配せんでもえぇわ。はよ行きな。」

漂う緊張感。

狐姿の父は私の足元に走り寄る。
どう対応していいのか、私は戸惑った。


「……鏡のアヤカシは、良い奴だよ。」


ただそう言って、狐の姿が青白い炎に包まれ、燃え尽きるように姿を消した。
死を連想して心臓に悪い。

鏡のアヤカシ。姫鏡くんが、良い奴?
父は彼を知っていたのかな。それなのに攻撃して、矛盾しているような?
それとも、私を守ろうとした行為で判断したのだろうか。

分からない。
大鷹くんも屈狸くんだって、同じように光莉や猫塚先生と共に闘ってくれたのだから。

神仕えである鵺の私は、何らかの神仕えを探して理に従うべき。
だけど。父が『鏡のアヤカシ』である姫鏡くんについて触れるのは、その事と関係するのかな。

光莉は私の想いを知っていて。
父は神落ちして母を選んでおきながら。

違う、一緒にしては駄目だ。

父は未来を覆すと言った。
私の直面する問題は死。それでも。理に反しても、視た未来が覆るなら私だって。

結局、一翔は私の視た萌しに係わることを選んだ。
私の視た未来、悪夢を奪ったあなたは知っていたのに。


『未来は少しばかり変わったのかもしれない。俺が喰った悪夢とは違っていたから』


姫鏡くんに近づくなと言ったのは、それが一翔と係わる事に繋がるからだと告げた。


『もう後戻りは出来ない』


理に反しても貫く。私の想い。
それはアヤカシでも鵺でもなく・・





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