諸々ファンタジー5作品
『エターナル』



『連なる日を跨ぐ夜。城への扉を開く。難攻不落を誇る我が砦に、挑戦するが良い。』



自ら難攻不落を誇る砦を、攻略してみろとの挑戦を受けた。



連なる日、この連休を跨ぐ夜。

土曜日から日曜か、日曜から月曜の日付が変わる時間に、城への扉が開かれる。



私はタクマとの約束で、土曜日の23時50分にPCを立ち上げた。

タクマは、私を試しているのだろうか。



懐かしい普通の画面からインターネットに接続して、お気に入りから『独創サイト』にログインした。

画像選択の一覧に、何らかの変化があるかと確認したけど、それらしき物はない。

私は、ヒロインに相応しい『光』を選択した。

画面の中央から、渦巻くように光と闇のグラデーション。

徐々に光の面積が増え、一面の白い世界にアバターが立つ。私に面して真っ直ぐな視線。



両手の平を上にしてゆっくり左右に広げ、右手に『ヒロインを続ける』左手に『ヒロインを辞める』その文字が交互に点滅して選択を促す。

私はマウスで『ヒロインを続ける』をクリックした。

すると選択しなかった文字は、黒い音符に変化。バイオリンの穏やかな曲が流れ、音符がアバターに触れて衣装が変わる。

以前に変身した白い戦闘服……手には、胴の部分が紺碧のタンバリン。それを腰の部分に提げ、ポーズを決めた。

どこか気恥ずかしさもありながら、これから向かう世界にドキドキとワクワク。

そして、待ち構える罵声……きっと、タクマに対する悪意。



画像が揺れ、形を成し、武装したタクマのアバターが出現する。

あの世界で『アズライト』と呼ばれる所以の、紺碧で統一された鎧は存在しない色だと言っていた。

私は以前、この姿でチャットに侵入したことがある。

設定にはない事、在り得ない状況だった。それを作り出したのはタクマ。

うん……大丈夫、信じることが出来る。あの行為は、見知らぬ誰かの救いになったのだから。

このゲームでの行為も、きっと、誰かの為だと思いたい。

私に求める『ヒロイン』も、必要なんだ……それは……“私”ではなくても、良かったのかな?

タクマは誰かが『ヒロイン』になってくれる状況を必要とし、都合よく現れた私。晴のメッセージと引き換えに……?

何かが腑に落ちない。

タクマは、私に説明をしない……それは、すべてが終わった後なのかな。彼は必ず対面すると約束をしたのだから、私は、その時を信じて待とう。



タクマは私に手を差し伸べる。

矢印キーを押して、タクマの方向へとアバターを移動させた。

手を取った瞬間、曲は途中なのにバイオリンの音は途切れる。



無音…………



PCの時間を見ると、日を超えたところだった。

PC画面の奥、アバターから離れた場所に扉が出現し、声が響く。

「我が砦、我が城はエターナル。さぁ、挑戦を受けた勇者よ……無駄な死を晒せ。最期の出立を祝う者達の声を聴くが良い!」

扉が開く様子と同時、アバターの周囲の画像が変化して、音声が大きくなっていく。

それは、深夜でも気にならない音量で止まった。

安堵したのも束の間、私たちを取り囲む人波と罵りの文字。聞こえる声は、あの言葉を含んでいた。

「英雄気取りかよ、チート!」

「チートは犯罪だろ!」

押し寄せて圧迫されるような画像と、罵声……タクマは歩き始める。人垣をかきわけ、扉までの一本道の吊り橋に足を乗せた。

そして、私の方に振り返る。

私はタクマの近くへ移動し、橋の方向へと向かう矢印キーを迷いなく押した。



タクマは微笑み、私の手を引き寄せて走り出す。

罵声は遠退き、二人が橋の上を走る画像が伝える臨場感。角度が四方に変化して、タクマは告げる。

「俺はチート。プログラムを不正に改造した。」

また悲しみの伝わる声。

この人は、何を考えているのだろうか。もっと知りたい。

貪欲になる。少ない情報で満ち足りず、今まで気にせず過ごしていたことにさえ怒りを感じた。



橋を渡り切り、開かれた扉を潜る。

その後、扉は閉まり下から消えて、中は扉のない円形の部屋に。壁はないけれど、遠くの床が円形で区切れている。

床の模様が揺れた。

橋の手前に集結した大勢の人だかりが映し出され、部屋中に響く罵声。

これほどの罵倒が、人の口から出るのかと思うと、身も凍えそうだ。



タクマは私を抱き寄せ、呟く。

小さな声で何か言っているのは分かるのに、耳を澄ますが聴き取れない。

そっとタクマは離れ、距離をとる。

咄嗟に、置いて行かれるのかと焦りが生じた。私は必死で、適当なキーを押す。

違う、私は傍観者ではいたくない。『ヒロイン』にもなれない。なって欲しいと言ったのは、タクマなのに!

悔しい、情けなさが襲う。

今まで私は何をしてきたのか……役に立てない。



必要と……して、欲しいの。お願い、タクマ……私も、何かが出来るなら……力になれない?

私は何の為に……



「トスフォルスィマホン!」

女の子の声が聞こえたのと同時でシンバル音が響き、視線をPCに向けるとアバターが変化を始めた。



タンバリンを持った手を掲げ、揺らして奏でるシンバル。それが揺れる度に、紺碧の光がキラキラと小雨のように降り注ぐ。

足元に紺碧の魔方陣が広がり、そこから生じる風に漆黒の髪が舞う。紺碧の光を吸収し、長い髪は漆黒から紺碧に染まった。

足元の魔方陣から生じる白青の煙が、風に舞うようにゆっくりと身体を包んでいく。

宙に浮き、白いロングブーツが艶のある武装用に変換。

バルーンスカートは巻きスカートのような形態に変化して、中はキュロット。

上半身には、背当てのない心臓を守るための胸当て。

腰にあった大きなリボンは解けて、しっかりとした帯が交替して着衣を締めつける。

そして解けたリボンは肩に移動して、留め金を起点に風に揺れて広がるマント。

両手の白いロング手袋は、手の甲や腕を守るための防具へと変化を遂げる。



すべての装備が整い、紺碧の色で統一された。

そう……この色はここに存在しない物。



その世界を作り出した者にとって、特異な色は、自分の意図したものではない。とても目障りで、不愉快な物でしかないだろう。



角度が変化し、天井部分が映し出される。

そこには無数の刃の光……効果音と共に降り注ぎ始めた。



今度は、バイオリンの高音で癒すような曲が流れ、音符が舞い始める。点滅する文字がPC画面に。

『Shift』

シフトキー!私は即座に反応して、押した。



「プロスヒェルテン!」

声と連動して、視界を奪うような光が私とタクマを覆う。

私の足元には魔方陣……傘のような防壁。降り注ぐ刃を、ことごとく打ち砕く。

そして画面上に飛び交っていた音符が、見えない壁を崩した。

砦は呆気なく崩れ去って、城の全貌を見せる。



防壁は消え、城を背景に……タクマのキス。アバターの私に。



両手を頬に添え、唇を重ね

……無音…………

それはまるで、ヒーローとヒロインのラブシーン。




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