諸々ファンタジー5作品

恋愛模様

『アズライト』



二人は、新たに開かれた扉を通る。

PC画面は、移動を暗示させるような異空間に浮かぶ二人を呑み込んで、眩い光を放った。



目が慣れ始めると、画面に映し出された光景に驚く。

それは城の中ではなく、天井のない円形闘技場だった。

観客席に居るのは、橋の前にいた人たち。選ばれた罵声と、画面に罵りの言葉の羅列。

やがて、それは同じ言葉で不気味に響く。



「殺せ。」と……



嫌悪する。

野次る声と、画像なのに伝わる異様な空気。



タクマは私に近づき、微笑をみせた。

「共に、闘ってくれますか?」

音声と同時で画面に、『はい・いいえ』が浮かぶ。



その瞬間に、雑音は消え……無音。



私はマウスで『はい』を選択した。ここまで来て迷いはない。

画像の右下に、Shift・3あ#・1ぬ!・4う$。4つの選択項目が現れた。

「ヒロインの助けがないと、この世界に平和は訪れない。点滅するキーを押して欲しい。それまでは何にも触れず……待っていて欲しいんだ。例え、俺が死んだとしても。」



画面の中央にEnterキーを促す点滅文字。暗い画面に映える黄色の光が目立つ。



エンターキーを押したと同時に、タクマは背を向けた。

『俺が死んだとしても』……



中央の画像が大きく揺らいで、徐々に鮮明になっていく。音は、不穏なメロディで戦闘をイメージさせた。

見たことのない大きなブルードラゴン。この世界に、紺碧の装備が存在しない理由…………



機械音の様な叫び声を上げ、空に放つ黒煙。敵は腕を振り上げ、鋭い爪でタクマに襲い掛かった。

攻撃をかわしたタクマに、時間差の疾風が打撃を与える。

ラスボスに勝てる要素がないような印象。それは、私がゲームに関して素人だからだろうか?



『俺が死んだとしても』

ずっと同じ言葉が頭に浮かぶ。私が出来る事は何だろうか。予測されるタクマの戦闘不能時……

『共に、闘ってくれますか?』

共に……共闘……今、私は傍観者。

『待っていて欲しい』

それは、いつまで?



私が今まで見たことがなかったゲームの世界は、リアルな効果音と鮮明な画像。まるで、そこに自分がいるようだ。

ブルードラゴンとタクマの攻撃と防衛が繰り返される。その攻防を外観する人たちは、何を考えるの?

初めてゲームの世界に来た時、タクマの強さは羨望の的だった。

この世界に存在しない色……ブルードラゴンと同色の紺碧。それがタクマの強さを覆すの?

タクマはプログラムを不正に改造して、『この世界に平和』が訪れる事を望んだとは思えない。

不正な強さを得たのなら、タクマは死を覚悟しない。ましてヒロインは不要。



ブルードラゴンに圧倒され、追い詰められた状態のタクマ。敵は長い尾を持ち上げ、タクマに目掛けて振り下ろした。

画面に点滅する文字『Shift』。前回と同じキーを咄嗟に押し、素早く反応できた自分に驚く。

心構えも無く、自分の頭の中を様々な思考が行き交い、集中力を欠いた。不注意な自分のミスを恐れ、気合が入る。



「プロスヒェルテン!」

前回と同様、視界を奪うような光と魔方陣。あの降り注ぐ刃を、ことごとく打ち砕いた防壁がタクマを覆った。

ブルードラゴンの尾は、威力を失ったように防壁で止まる。巨体のバランスを崩したのか、ブルードラゴンの攻撃も停止。

タクマは剣を構えて詠唱を唱え、足元の魔方陣に剣の切っ先を向けた。

周辺を闇に染め、魔方陣の特別な光が円柱状に上空へ向かって一気に駆け上る。空には雨雲が広がり、薄暗い画面に寒気を感じた。

魔方陣は白煙のような光を放出し、タクマの周りを渦のように回転しながら包む。雷鳴が響いて閃光が走り、タクマは剣を掲げて落雷を受け止めた。

ブルードラゴンは奇声を発し、戦闘態勢に入る。

タクマの剣は雷を帯びて、電光石火を繰り返していた。襲い掛かる巨体に、タクマは剣を両手で構えて攻撃。

剣は、打撃の為に伸ばされたブルードラゴンの腕を貫き、腹部に突き刺さる。

その切り傷の所から、砂のような黒い霧状の物が噴出。その量は、血飛沫を連想させた。

ダメージの大きさを物語るように、巨体は縮小する。ブルードラゴンは受けた傷に、苦痛の機械音での奇声を上げ、揺れ続けた。



「お前が何故、この攻撃を……まさか、そんな……」

明らかな別の存在の声。

「そうだ。俺は、お前が取り込んだ勇者を解放した!この装備の紺碧が、その証拠だ。唯一ブルードラゴンを倒せる勇者を、この世界から葬り、消去できたと思っていたのか?」



データの改ざん。タクマの真意。

そして、アズライトの正体…………




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