未知の世界6

熱が下がって数日後…。
既に第二やごな病院での研修は終わっていた。
最後の日には岡本先生がお見舞いに来てくれて、追加の資料だと論文を持ってきてくれた。





もちろんそれは、幸治さんに見つかって医局の私の机の上に、持っていかれてしまったけど、少しだけ自分の手元にも置いておいた。





研修が終わった頃に、医局長も病室に来てくださった。
雑談の後に言われたことは、アメリカ留学のこと。





かつて大学生時代、たけると研修したメイソン病院への留学には、今の私の状態が回復して主治医が許可してくれたら……その後考えようということだった。





今のところいつ行けるのかは未定……ということで終わった。





私が頼りにしていたたけるは、予定では半年後の出発が決まっているようで、私がそこに一緒に行けるかは、まだ分からないことだった。






そして私の最終決定を下す主治医というのは、お父さんと進藤先生と、石川先生のようで、その決定はこれから始まる様々な検査の後となった。







「はぁ……やることいっぱいなのに。私がどうこうできるものでもないし…。どうしたらいいんだろうか。」






そんなことばかりを考えて…でも結局答えは見つからず、窓の外を眺めてため息ついて……。





ただ毎日ここでじっと過ごすことが、次へのステップとなりそう。






「はぁ…。」







再びため息をついた時、






『そんなに疲れた顔して、どうしたの?』





部屋に荷物を持って入ってきたのは、お父さんだった。






あれからも毎日お父さんは、長時間暇になると病室に来てはずっと仕事をしている。





高熱にうなされていた時ほど厳しくはないけど、私が日中寝すぎてないか、外を出歩いてないか、と監視するために来ているようで。





そんなことで廊下もトイレや検査くらいしか歩けないから、どんどんと体力が落ちているのだけど。
それにも関わらず、同じように比例して落ちてきた食欲は無視されて、毎食しっかり食べるまで席を立たないお父さん。





最近思い出したことなんだけど…いつか進藤先生が、お父さんは治療に関してかなり厳しいと言っていたことを思い出した。





たぶん私みたいな患者は、お父さんには怠けて見えることだろう。
怠けてるんじゃなくて、怠いんだけど…。ただただ入院中はマイナスなことばかり考えて、そして外にも出ない…だから負の連鎖が発生し続けてしまって、身も心も怠くなってしまっているんだろうけど、そんなことは全くお構いなしのお父さんだった。





最近は病室に来るなり、私の額に大きな手を当てて熱が上がってないか確認することが日課になっている。






『うん、大丈夫だね。顔色と表情はものすごく悪そうだけど』






心配するお父さんに、






「大丈夫です。いつもこんな感じですから…」






可愛げのあることは何一つ言えず、可愛くない私…と思いながらも出てくることはネガティブ。






『とにかく今はここでゆっくり過ごすんだよ。』






「…少しは部屋を出たいです……。」







『もう少し待ってね。今動いても、体には逆効果だし。』







心にはいいと思うんだけどな…。







納得いかず、





「いつになったらいいですか?」






と言ってお父さんを困らせてしまう。








『ハハ、相当出たいんだね。
でもね、検査も終わってないし、ここで我慢できなかったら、退院も伸びちゃうよ。』




それは困る……退院伸びたら仕事復帰も遠くなる。





早く戻らないと、私の可愛い後輩の直子が朝の準備とか大変そうにしてるのが目に浮かぶ。





と言っても、たけるがしっかりやってくれているだろうけど。






それでも気になって仕方ない。






早く退院しなくちゃ。





と心と体は全くペースが違ってしまい、体は心についていってない…。









< 65 / 163 >

この作品をシェア

pagetop